【乙女部】―act.1―-3
『…え』
「な?」
秋吉と呼ばれるその人は、相づちを求めるかのように、こっちをチラッと見た。
無理矢理なんて、そんな事ないのに、きっと私の事を気遣って言ってくれてるんだ…。
そういえば、さっき階段でぶつかった時も何だかんだで気にしてくれてたし、この人ほんとは不器用だけど良い人なんじゃないかな。
…よし。ここは甘えさせてもらって、彼の話に合わせておこう。
「…てことは、秋吉から何も話は聞いてないってことだよね」
「つーまーり!新入部員じゃないのかぁ〜。
せっかく、こんな可愛い子と楽しい部活ライフが送れると思ったのにさぁ〜」
事情を知ったナルさんと未来ちゃんは、残念そうにため息をつく。
『あ…で、でも!私まだ入りたい部活とか決まってないし…』
「え!?そうなの?じゃあ検討してくれたりなんかする!?」
入りたい部活が決まってないっていうのは本当。
…だけど、部活に入る気がないなんて、この状況で言えるわけがない。
『…はい』
そのためか、自然と返事も小さくなる。
でも、そんな事を気にする様子もなく、ナルさんは再び元気を取り戻し、
「良かったぁ〜。では、可能性が出てきたとこで…
秋吉!さっさと自己紹介しちゃいなさい」
と、場を仕切り直した。
「あ〜…はいはい。
俺は1年の秋吉 奏(あきよし かなで)。
この連中とは兄貴との繋がりで、入学する前から知り合いなんだ。
まあ、そのせいで必然的にこの部へ引きずり込まれたわけ」
1年生…だったんだ。
てっきり言動が偉そうだから、先輩かと思った。
「ひっでーなぁ。
あっきー、嫌々でここに来たのかよー」
「そーよ、言い方悪いんじゃなーい?秋吉。
むしろ、感謝してほしいくらいだしー」
一見、お互いに不満をぶつけあってるように聞こえるけど、実際は楽しそう。
なんていうか…そう!じゃれてるって表現が正しい感じ。
「あ〜はいはい、わかったよ、キャンキャンうっせえっつーの。
…それで、アンタの名前は?」
『あ…えと、1年の雨野 夏乃です』
「へぇーえ。夏乃ちゃんかぁ。
かっわいい名前じゃん♪」
「ん〜…夏乃…夏のん…
よしっ!夏のんに決定ー!!」
突然、ナルさんが声を上げた。
どうやら、私のあだ名が決定したみたい。
…それにしても、夏のんって。
幼稚園以来に呼ばれたわ。