胸音-6
「これ…本当は昨日、渡したかったけど。」
安藤くんは私の左手の薬指に指輪をはめた。
「19才の誕生日に指輪をもらうと幸せになるって言うじゃん?安物だけど。」
涙が止まらなかった。
「髪さぁ…。」
斉木くんが言う。あの誕生日から1週間、私はまた彼に会いに来てた。
「もっと明るい方が似合うんじゃない?」
髪に彼の指が通る。
「じゃあ、染めよっかな。」
一度も染めたことがない黒髪。でも斉木くんの一言でどこまでも変われる気がした。
次の日、早速、美容院に行った。髪が茶色くなっただけで、世界が明るくなった気がする。ウィンドウに写る自分。服と靴も派手めに新調した。
「ちょっといいですか?」
振り返ると、キャバクラのスカウトだった。声をかけられるのは初めてだ。その場は怖くて逃げたけど、私がキャバクラで働いても変じゃないんだと思うと、自信がついた。
キャバクラかぁ…もう貯金も底をつきそうだし。斉木くんにメールをしてみる。
―私、キャバクラで働こうかと思うんだけど、どうかなぁ?―
珍しくすぐに返信が来た。
―やめた方がいいよ!キャバクラはノルマとかあるし、髪型や服にもお金かかるし、大変みたいだよ!―
―そっかぁ、ありがとう!―
―バイト…探してるの?―
斉木くんの紹介で、面接の人と会った。見た目は怖いけど、話すと案外いい人だった。一度、体験だけでも来てみたら?と言われた。ヘルスの仕事だった。
「髪、黒い方が俺は好きだったな。」
「みんなからはこの色、評判いいよ。」
みんなって言ってもホストのみんなだけど。
その日、初めて安藤くんのを舐めた。何度か吐きそうになったけど、喜んでくれたみたいだ。私の中で何かが大きく変わろうとしていた。
ヘルスの講習。前の面接の人とは別の、太ったおじさんだった。体を触られると、鳥肌が立つ。泣きそうになりながらも、教わった通りに事を済ます。
待ち合い室では、こういう店に不釣り合いな年輩の女の人と、少し太めの女の子がいた。挨拶だけして、隅で置いてあった雑誌を読んでた。
初めてのお客さんは、年輩の人で、あんまり私には触ってこなかった。優しい人だった。
二番目の人もおじさんで、私の事をかわいいと言ってくれた。話してる時間の方がサービスしてる時間より長い位で、楽だった。
思ったより抵抗もなく、お店で働くことに決めた。日払いでお金がもらえるのが嬉しい。
家に帰ると、斉木くんから電話があった。
「大丈夫だった?無理しなくていいからね。」
「うん。大丈夫。お給料がよくてびっくりした!」
少しだけ、斉木くんと話すのにも慣れた気がする。
それから何日かして、仕事にも慣れてきた頃、また駅で斉木くんと待ち合わせした。