投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「保健室の小さな秘密」
【教師 官能小説】

「保健室の小さな秘密」の最初へ 「保健室の小さな秘密」 31 「保健室の小さな秘密」 33 「保健室の小さな秘密」の最後へ

幸せな子守歌の様に-2

「……ごめん、なんでもない」
私のバカ。
悠とあの人は違うのに。
呼びとめてどうするの。

「なんでもないの。ごめんね」
もう一度悠に向かって言う。
「なんか、今日の奏子は変だなぁ…」
悠が苦笑いしながら戻って来て私の前に立つと、ぐいっと腕を引っ張って抱き寄せた。

悠の腕の中にすっぽりと収まる。そこは、涙が出そうな程温かかった。
そのまま身をまかせて瞳を閉じる。


――――――…
大学時代、私には同棲している人がいた。二つ上の先輩で、サークルで出会ったのがきっかけだった。
いつかは、…この人と結婚したいと考えていた。

だから先に就職した彼に、私が大学を卒業したら結婚しようと言ってもらった時は嬉しかった。

でも。

結婚したら家庭に入って欲しいから、採用試験は受けなくても良いと言う彼と。
せっかく大学で勉強したのだから、資格を活かしたいと言う私との間で溝が出来た。

その溝を埋める事が出来なくて、プロポーズにも煮え切らない私に嫌気がさしたんだろう。
荷物をまとめて彼が出て行くのを、私はただ見てるだけしか出来なかった。
……名前を、呼ぶことすら出来ないまま。

ものすごく後悔した。
何か行動してれば違う結果になったのか…とか、もっと言葉で色んな気持ちを伝えていたら…とか。
言葉にするのも、感情を表に出すのも苦手な自分にほとほと呆れていた。
自分を責めて、責めて。
責め続けた。

だけど後から話を聞けば、社内に恋人がいたらしい。
要するに、私は捨てられたのだ。

しばらく、何をするにも億劫になって、周りにえらく迷惑をかけてしまった。

あの人に未練があるわけじゃない。ただ、恋愛経験があまり豊富じゃない私にとって、大きな出来事だった。

悠が俯いた私の額にキスを落とす。
「奏子と、もっとゆっくり会えればいいのに…」
見上げた悠の顔は、笑っているのに少し悲しそうだった。

その表情が胸を締め付ける。
私も、悠に会いたい。
もっと一緒にいたい。
人の目を気にすることなく。

「悠…今から家に、来ない?」
余りに予想外の言葉だったのか、悠が大きく目を見開く。

「あ、嫌ならいいんだけど」
…私って、腹が立つほど本当に素直じゃない。
もっと悠に会いたいからって言えればいいのに…。

でも、素直に自分の気持ちを伝えて拒否されたら…と思うと怖くて。
結局、臆病なのよね。

「嫌なわけないじゃんっ!すっげー嬉しい!」
言うなり強く抱き締められた。…く、苦しい。
でも、言って…良かった、みたい?
いそいそと帰る用意をする悠の後ろ姿を見ると、何だか笑ってしまう。

一緒に行くわけにいかないから、一度別々に帰って着替えてから家に来てもらう事にした。
「んっ…ちょっと、待って…ここ玄関…」
玄関に通した途端、すぐに後ろから抱き締められて唇を塞がれる。
悠の腕は強く私の腰を抱いていて、歩こうにも歩けない。

縺れる様に歩きながら、リビングのソファーの上に二人で倒れこんだ。


「保健室の小さな秘密」の最初へ 「保健室の小さな秘密」 31 「保健室の小さな秘密」 33 「保健室の小さな秘密」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前