【乙女部】―act.0―-2
『うん、そーしよっかな。
まぁ、ゆっくり見学しておいでよ』
「ゆっくりって訳にはいかないわよ!
全ての運動部の見学を、来週の入部届け締切日までにすませなくちゃなんだから。
1日2つは見学しなきゃ!
さてと。じゃあ、あたし急ぐから!
気を付けて帰んなさいよ」
言うやいなや、ものすごいスピードで駆けていく絢の後ろ姿を、私は少しの間ぼんやりと見続けた。
なんか良いな…夢中になれるものがあって。
どんな形にしろ、それしか見えなくなるくらい、追い掛けるものがある絢が羨ましい。
私にはなかなか、そういうのが思い当たらないもん。
前に絢にそんな話をしたら、「恋をしろ!」って言われたけど、しようと思ってできるものでもないし、今イチ《恋》ってゆーのがピンと来ない。
思えば、ちゃんとした恋なんてまだ経験がないように思う。
絢がいつも彼氏だのなんだの言ってる時に、(また男の話かぁ…)とか思ってたけど、よく考えてみたら私なんて恋愛レベル0。
…絢の姿が見えなくなった廊下で1人そんな事を考えていたら、なんだか、この年で0はマズイ気がしてきてしまった。
我ながら影響を受けやすい、単純な性格…。
と、とにかく!何か!何でも良いから夢中になれるもの探そう!
恋愛だけが全てじゃないし、それをおぎなえる何かがあれば、毎日がもっときっと楽しくなるはず。
…恋愛をはなから諦めモードなのは、“恋愛の仕方”が分からないから。
別に何が何でも恋愛をしたいって訳じゃないし、とにかく今は、早く帰って何か没頭できる趣味とか探さなきゃ!
教室に戻って通学鞄を掴み、さっきの絢に負けないくらいのスピードで廊下を走り抜け、放課後の人が少ない西校舎の階段を、そのままの勢いで駆け下りる。
チャイムが鳴り響いて、部活の開始が告げられる。
私の足は休む事なく、3階から1階へと早いリズムで階段を駆け下りていた。
しかし…
ドンッ
2階から1階へと下る途中、私と同様、急ぎ気味で上ってきた人とぶつかってしまった。
『ご…ごめんなさい』
ぶつかったショックで軽く尻餅をついてしまい、少し痛むお尻をさすりながら謝った。
相手は猫っ毛の茶髪に少し華奢な体格だけど、制服から見て男の人だった。
「…いや、別に」
彼も膝をぶつけたようで、足に手をやっている。
『あの、大丈夫ですか?』
暫らくそのまま動かない彼に対して、心配になり声をかけてみる…が、
「別に」
同じ返答。
なんか、ちょっとヤな感じ。
人が心配してるっていうのに!
それに、私ももちろん悪いけど、今回の事故はお互い様なんだから謝ってくれても良いと思う。
そっけない返事ばかりで、今もなお膝を抱え、俯いてる彼に少しばかり腹がたってきた。