「消えぬクリスタルハート」-4
あまり変わらぬ光景。
煌めく噴水の水、その前の白いベンチに彼女がいないだけ。
ふと、あの時の彼女はどんな風に自分を待っていたのか考えてしまう。
「やめとけ。今は落ち着いて…イメトレを…」
相変わらず度胸がない。
用意してきた言葉を、何度も何度も頭の中で繰り返す。
暴れる心臓を…本当に自分の一部なのかと疑いたくなるほど暴れている心臓を抑えつけながら。
「…七時だ」
近くの時計が、それを知らせる。
彼女は、まだ来てない。
時間は、二分を過ぎた。
連絡は、何もない。
彼は遅れる時、連絡だけはしていた。
彼女から連絡は来ない。この前の仕打ちだろうかか。
いや違う。
こんな小さい事をやるような彼女じゃない。
長いこと付き合って来た彼にだから言える。
彼女は、必ず来る。
「…ほら、来たじゃないか」
階段から現れる彼の待ち人、そして想い人。
肩から架けた小さな鞄を手で押さえながら小走りに近づいて来る。
ベンチに座っていた彼は立ち上がり、迎える。
「…やぁ」
「ご、ごめん!」
彼の元へ着くと同時に頭を深く下げる彼女。
そんな彼女に、彼は明るく言う。
「大丈夫だよ、そんな遅れてないし…僕もさっき来た。早く来るって言ってたのにね」
なるべく嘘と気付かれないように笑いながら…。
その結果が彼女を怒らせてしまっても構わない。
「だから気にしないで」
「…また嘘言う」
「え…?」
(ばれた?)
そんな馬鹿な。自分でもビックリするくらいの演技だったはず。
「ほっぺ、掻いてる」
「…あ」
自然を装い過ぎて単純なミスをしていた。
彼の癖、嘘を言うとき頬を掻く癖。
しかし、ばれたが何故か嬉しい。
この仕種の意味に気付いてるのは彼女だけだから。