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「風雲鬼」
【ファンタジー 恋愛小説】

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「風雲鬼」〜第二話『ミコの想いと泉の向こう』〜-1

 時は、夜更け──

 空には、美しい満月。連なる山々の中にぽっかりとできた盆地が、月に柔らかく照らし出されていた。
 盆地内は、田畑や家々などが細かく敷き詰められている。ここでは、小さな集落が、ひっそりと外界に知られることなく、静かなたた住まいを送っていた。

 そう、表向きは……


--…カラカラカラ…--


 月夜の空に、乾いた小さな音が響いた。
 その音は、集落の北側、他の家屋よりは大きめの飯処『なかはま屋』からのもの。

 開いた裏戸から、一人の子供が顔を出す。

 髪はてっぺんで結い上げまとめられており、ぽってりとした頬が可愛らしい女の子だ。
 少女は首を左右に振って辺りに誰もいないのを確認すると、一歩外に出て裏戸を閉めた。辺りはとても静かで、耳を澄ますと虫の鳴き声がよく聞こえてくる。
 少女は、集落を横断するように南に向かって歩き始めた。艶やかな桜色の衣服が、月に照らされて美しく映えた。




第二話
ミコの想いと泉の向こう



 上空を木の葉に覆われた、欝々と暗い山道。
……否、獣道といった方が合っているだろうか。
 その薄暗い空間を斜に切り裂く木漏れ日は、時と共に照らす位置を変えていく。

 木の葉の隙間から覗く空を、すっと見上げる三雲。 木漏れ日は、次第にゆっくりと三雲の上を通り過ぎていった。
………
……




どれくらい時間が経ったんだろう。この体勢になってから、しばらく動いていない。

背中には、ひんやりとした地面の感触。
それとは反対に、胸にはあたたかな……ミコの温もり。

さっきまで鼻をすすったり小刻みに震えたりしていたミコも、今はだいぶ落ち着いたみたいだ。

木の葉のわずかな隙間から射す日の光は、俺たちの右側から左側に照らす位置を変えていた。
・・ってことは北枕か。縁起悪っ。
こんなことになっちまった原因を作ったタヌキたちは、なぜだか遠巻きに俺たちを眺めている。
見せもんじゃねーぞ、って一匹睨みつけてやると、そいつはビクンッと体を硬直させた。
それがなんかおかしくて、他の周りのやつらも順番に睨みつけてやった。

俺はミコの背中をさすり続けていた手を休めて、ひとつ息をつく。
動きを止めると、何かよくわからん動物の鳴き声や木の葉の擦れる音とかが鮮明に聞こえてきた。


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