続・夜の学校-7
「この学校もずいぶんきれいになったな」
廊下を歩いている時、俺は誰もいない校舎内を見回しながら言った。
「最初が汚すぎたのよ。最初入ったときとてもこの学校で生活を送る気になんかなれなかったわ」
確かに俺が生活委員になった時は汚かった。特にトイレは男女ともども最悪の部類にはいる環境だったと言っていいだろうな。
「私が生活委員会に入ったのもこの学校を変えようと思ったからよ」
「そうなのか。でも確かに学校はきれいなったけど生活委員の出席率は委員長がいたときより低下したぜ」
俺はちょっと語調を強めて言った。
すると委員長は含み笑いを浮かべ、
「やる気がない人に無理矢理やらせても駄目よ。かえって邪魔なだけ。だから別に気にしないわ」
「ははは。それもそうだな」
俺は情けなく笑う。さすがはたくましき委員長。
けど出席しているからと言って別に俺にやる気があるわけではなく、単に惰性でやってる、と思ったが言えるわけがないぜ。
しばらく二人で夜の校舎内を散策していたが誰もいる気配がしなかった。
「うーむ、今日は誰もいなさそうだな。見回ってもしょうがないんじゃないか?」
俺がそう言うと委員長はしばらく考え込み、
「一応最後まで見てみる必要があるわ。二人で同じところにいても効率が悪いから二手に分かれてそれぞれ別の場所に行きましょう」と提案してきた。
「それはなかなかいい案だな。よし、そうしよう」
と俺もすぐに承諾し、とりあえず二手に分かれることにした。
委員長はそれぞれの学年の教室がある手前の方に、そして俺は音楽室や美術室のある奥側のほうに行くことにした。
委員長と別れたあと、俺は校舎の奥のほうへと足を進めていた。
この奥の廊下を渡ったほうに美術室と音楽室がある。音楽室へと続く廊下の電気のスイッチをつけたが明かりが薄暗くて余計怖い。俺が教室にして、こっちに委員長を行かせりゃよかった。音楽室なんてモロ幽霊スポットじゃねえか。さすがの俺でもこんな時間に行くのは少しこえーぜ。音楽室の中からベートー ベンのジャジャジャジャーン!、とか聞こえてきそうだぜ。
こうして俺が少しビビりながらも、音楽室へと向かおうとしたら、
「んん?」
誰かが近づいてくる気配がする…。いやまさか誰もいないに決まっているじゃないか、と俺は自分に言い聞かせた。しかし、やはり気になって俺は気配のする方向を凝視した。
「おい! そこに誰かいるのか?」
よく見ると守衛の人だった。警備の服を着ている、50歳くらいのがっちりしたおじさんだ。
守衛のおじさんは俺を見ると驚きの表情で、
「こんな夜遅くに…。君は一体誰だい?」
「この学校の生活委員です。夜の見回りをすることになって」
「ああ、あの有名な生活委員か。最近また校長から賞状をもらったみたいだね。いやあまったく感心なことだ」
そう言うと、夜の学校をうろつく怪しい生徒に何も突っ込まずに、守衛のおじさんは、はっはっはと笑う。あまり守衛っぽくない人だな。むしろ、ひげの生やし方といい笑い方といい、農家のオッサンみたいだな。
「こんな夜中も警備をするんですね」
「ああ、知らない人が多いだろうけど実はこの学校、校舎の鍵が壊れて閉まらなくなっちゃったんだよね」
「ええ? それってちょっとマズくないですか?」
「いや、だからおじさんがこうして警備してるんじゃないか。鍵の修理まで一週間ぐらいかかるからそれまでの辛抱だ」
そう言って守衛のおじさんは暑そうに警備用の帽子を取った。