続・夜の学校-5
「近藤逃げろ!」
しかし―――遅かった!
つい一秒前まで元気にわめき続けていた近藤の体が突如崩れ、そのままタイルの床にうずくまってしまった。
委員長の最強にして最凶の奥義、スネ蹴りが近藤の足に目にも見えない速さでジャストミートしたのだ。
「近藤!?」
「だ、大丈夫かい?」
俺も伊藤も、一般人相手に奥義を使った委員長を攻めずにまず近藤の心配をした。近藤は足を押さえたまま動かない。痛さのあまり息もできずに苦しそうだ。
「委員長。やりすぎだ。いくらなんでもあの奥義を使うのはやりすぎだ」
委員長の奥義は一年ぶりに見たな。俺以来二人目の被害者を出したか。
委員長は無表情で、床で苦しそうにもがいている近藤を見据えていた。
「うるさいから黙らせたのよ。あなたは今夜十時に学校の正門にいて頂だい」
委員長はそれだけ言うと、静かに教室を出てった。俺と伊藤はボーゼンとその姿を見送る。
近藤はしばらくうずくまったままだった。
時刻は午後二時を回って、暑さはピークを迎えていた。今日は真夏日だな。ホント日射病にかかって倒れたくなる暑さだ。
俺はと言うと伊藤と学校で別れ、痛みをこらえる近藤を励ましながらも帰り道を急いだ。近藤はあまりの痛さに俺に支えられてびっこを引きながら歩いていた。
痛さなのか悔しさなのか、半ベソをかいていた。
「近藤悪い。俺が口をすべらせたばっかりに。今度カキ氷でもおごるよ」
「いや、お前は悪くねぇ。悪いのは全部あの委員長だ。あのクソ女。もうウンザリだ。俺は生活委員会と今日でオサラバするぜ」
「しかしお前、付属大学への推薦受けられなくなるんじゃないのか?」
「あいつに付き従うよりは浪人したほうがましだ!」
だめだ。この男の意思は固いようだ。
しかし、なんとなくだぜ? なんとなくだが、そういいつつまた二学期までに委員会に復活するような気がしてきた。ただの直感だが。俺はそんなことを考えつつ、近藤の方をささえながらも家路に向かった。
その一時間後――――午後三時すぎごろ。
俺は自宅で寝ていた。
近藤と別れて家に帰った後、極度の疲労と眠気が襲ってきて俺はそのままベッドへと倒れこんだ。そういえば今日も昨日もあんまり寝てないし、罰掃除させられるなどいろいろと肉体を酷使され、きっと俺の体も疲れているんだろうなあ。
その日の夜―――――夜10時ごろ。
俺はやっぱり自宅で寝ていた。
俺も相当疲れていたんだな。
寝ている間、俺は大きなクマさんと追いかけっこしている夢を見ていた。
なんでこの年になってクマさんと遊ばなくちゃならねえんだと思いつつ、正直かなり楽しかった。クマさんは意外に足が速く、どたどたと巨体を揺らして草原を駆け抜けていく。俺だって小学校のころはリレーの選手だったから足には自信あるんだぜ? クマさん、待ってくれー、俺もすぐ追いつくからなー…
「ピピピピロピロピロロー♪」
「なんだなんだ!?」
ケータイの着メロで夢から目が覚めた。そうだ。マナーモード消してたっけ。
誰か確認してみると、我が生活委員長からだった。あらめずらしい。なんだろう。
あ、そういえば今夜十時に約束してたっけ。
昼寝してすっかり忘れていたぜ。
俺はあわてて通話ボタンを押した。