続・夜の学校-2
「よう。相変わらず眠そうだな」
近藤は、眠さと暑さのあまりにふらついている俺を見て苦笑しながら言った
「昨日は3時間しか寝てないからな」
「そうか。俺もあまり寝てないがこのとおりピンピンしてまっせ。じゃあ罰掃除に行くとするか」
俺と近藤は階段を上って廊下を渡り、教室に入った。すると、
おお、ここはまさに天国だ。クーラーがきんきんに効いている。
その清涼感のあまり、さっきまで俺を取り巻いていた眠気が一気に吹き飛んでしまった。
これだ、これこそ夏のよさだ。クーラーを味わえる季節、夏。最高だぜ。
「ああ、涼しいなぁ」
「おう、学校にクーラーがついてて良かったぜ」
俺と近藤はそのままその場に立ち尽くしていた。
すると突然、
「なにのん気なこと言ってるの? そこのさぼりコンビ」
と背中をなでるような声が、振り返ると生活委員長の姿。
おお、セーラー服夏服バージョン。そういえば毎年この時期がやってくると衣がえをするんだっけ。
うーむ、生地が薄い。ムッツリの俺にはたまらない。
「わぉ」
バン!、とホウキが俺と近藤の目の前に突き出される。
「ボーっとしてないでさっさと掃除をして。昨日サボったあなたたちのために私がわざわざ学校に来てるんだから」
なにがあなたたちの為だよ…なら罰掃除なんてしなきゃいいのに。
「さっさとはじめてよ」
「へーぃ」
俺と近藤が一斉に返事。まるで下僕のようだ。
そして俺たち二人は渡されたホウキで、もくもくと掃除を始める。今回は俺と近藤の二人しかいないので私語すら許されない状況だった。
さてさて、ここで我が最強の生活委員長について紹介しよう。この委員長は確かに厳しい委員長だが、前章ではあまり出なかったためにファシズムだの鬼だのと、大げさな表現だと思った読者もいるだろうな。
そんな読者諸君に俺はこの言葉を送る!
世の中をなめんじゃねえ!
甘い。甘すぎるのである。この委員長はそこらへんにいるただの厳しい委員長ではない。一年以上も生活委員をやってきた俺はそのへんは一番よく分かっているつもりだ。
あの委員長が突然生活委員会に入ってきた一年前のあの日を、俺は今も覚えている。
当時の俺たち、あの委員長が就任する前の生活委員は自由で特に仕事もなく、あってないようなものだったのだ。
そんなだらけた中、あの委員長が突然生活委員会に入ってきて、立候補したのだ。
誰も委員長になる気などなく、押し付け合いになることが予想されたので、一瞬にして決まってしまった。みんな早く決めて家に帰りたかったのだ
そしてその次の日から生活委員会は一変した。
定期的に学校の掃除を行い、なんと一ヵ月に一回、トイレ掃除までやらされるのだ。これでは学校に用務員がいる意味がまるでない。んでその結果学校から表彰されるなど、一見生活委員の栄光の時代に見えたのだが、自由を求める俺たちにとっては遊ぶ暇がなくなり、いいメーワク以外のなにものでもない。
まあ全てテキトーにやっていたうちに、あの委員長がテキトーに選ばれてしまったので、そんな委員長を選んだ俺たちも原因だったと言えば否定できないけどな。
そして気がつけば、俺たち生活委員はこの一年でいざ委員長の呼び声がかかればいやおうなく召集される部下と成り果てていた。もちろんこの生活委員のしきたりに耐え切れず、しかも委員会なのでやめることもできずに幽霊になった者も多くいた。
だが、前述のとおり俺の学校は付属校なのだ。俺の学校の制度で委員会のサボりが5回以上報告されると、付属への推薦が受けられなくなる。ちなみに委員長は3回以上休んでいる幽霊委員にたいしては無理に来させようとせず、たまにきても出席を取らないようにしている。つまりもう用なしということで首切りである。
その一方で付属へ行きたい俺はというと、最初はそれを恐れて毎回掃除に出席していた。んでもってそのうちに惰性という恐ろしい作用が働き、グチをいいながらもなんとなく俺はこの環境で委員長に従っていたのだった。