飃の啼く…第3章-2
飃は盾を掲げた。
やつが盾にぶち当たれば、その魔力によって、盾の見えざるゲートが開く。そして、北斗七星輝く夜空―もとい宇宙空間に吸い込まれ、投げ出されるのだ。そして破魔の力を持つ北斗七星の光に浄化され、二度と戻ってくることはない。
だけど、飃はわざと、盾のゲートを開かなかった。そいつは盾にぶち当たって、グちゃ、と言う気味の悪い音を立て、盾に張り付いた。そいつが飃に向かって触手を伸ばす前に、盾の縁を地面に打ちつけて、盾からはがした。その動作があまりにも速かったので、私にはただ呆然と見ていることしか出来ず…
飃は、その時ようやく、帯びていた名剣「七星」を抜いた。剣の名の由来である、刃に埋め込まれた七つの宝石。それが暗闇にきらりと光る。
飃は剣を魔物に突き刺した。
ひどく優雅な動作で、必要以上に深々と。
そして、その魔物が消え去るのをじっと見つめていた。
先日学校で戦ったような、中級の、もしくはそれ以上の固体を「完璧に」滅ぼすには、私や飃が持っているような「特別な武器」が必要となる。(飃も詳しいことは知らないらしいがこの国にいくつかそういう武器が存在しているのだという。)だが、今回のような雑魚相手なら、破魔の願をかけて作られた武器で、破壊することが可能だ。
「疲れたか?」
最後の一掴みまで塵になって消え去ると、ようやくこっちをみて飃が言った。
「ぅん…こう見えても、20体以上は倒したもん。」
どんなもんだい。と、胸を張った。
「そうだな、だがこんな雑魚ばかり相手していて、腕が上達するというわけでもない…」
さらりと一蹴される。雑魚ばっかりで悪かったわね。飃は剣を鞘に収めて、私をちらりと見る。
「少し休もう」
少し…朝まで休ませてくれる気はないわけね…そう思いながら、ありがたく師匠の後に従った。
明かりが消えた駅のホームのベンチに座って、持参した懐中電灯の明かりで辺りを照らした。とはいえ、寒さはどうにもならない。夏が目前に迫っているとはいえ、汗をかいた服が夜の空気に冷やされて、軽く震える始末だ。
自宅で作ってきたおにぎりも冷たくなっている。空腹だし、自分が作ったのだから文句は言わないが。
「どうやって大きな奴を見つけるの?」
「黙っていても寄ってくるだろうが」飃は言った。「待つのもつまらん。もっと都の中心に近づけば見つかるだろう。」
つまらんって…
「遊びじゃないんだよ?訓練でしょ?」
少し憤慨していう。
「お前にとっては訓練だが、己にとっては遊びのようなものだ。ここのところろくに剣を振るっていないせいでうずうずする。」
獣の犬歯がきらりと光る。