想いの温まる場所-2
「まったく、あんた待ちなのよ!」
ガラガラ…
教室の中に入ると、暗幕が張られ雰囲気はそれなりに出てる。
「はい、これ」
黒い衣装が手渡される。
「着替えて来て!」
シャッとカーテンがひかれる。タ、タキシードかぁ…。
とりあえず、ズボンをはき替えて制服のシャツの上に上着を着てから外に出ると、
「おぉ、さすが!着こなしてるわね〜。マント羽織れば伯爵って感じ」
と女子陣からの感想。
「悪かったなぁ!七五三もどきで!」
親友の健介を始めとするクラスの男子達の叫び。
もうそれからは付け毛だ、付け八重歯だ、いい様にもてあそばれて、マントまで羽織らされた。
…着せ替え人形じゃあるまいし。逃げたい…。
裏方の厨房係もフルーツの箱やらジュースやら運びながらバタバタ忙しそうに駆け回っている。
「どうせだったら、オレ裏方でいいのに…」
小さく溜め息混じりに呟くと、隣の健介が笑った。
「何言ってんだよ、悠のフェロモンで女の子の客get作戦なのに」
「なんだそりゃ…」
小さい溜め息が大きいものに変わる。
すると、健介の彼女の愛ちゃんが視聴覚教室に入って来た。
「健ちゃん、蝶ネクタイ曲がってるよ」
笑いながら愛ちゃんが健介の蝶ネクタイをキュッと直してあげている。
なんだか…二人だけの世界、みたいな。
忙しさが一段落して、皆が昼メシを食べに校外に出ようと話をしている光景をぼーっと見ていると、美和が隣の椅子に腰を下ろし話しかけて来た。
「なんか悠と話しするの久しぶりだよね」
「んー、そうかな」
オレは美和の方を向かずに応えた。
「冷たいねー、前はよく遊んだのに」
意味ありげに上目使いで笑う。
美和はサッカー部の元マネージャーで、クラスも出席番号も一緒。外見はギャルっぽいけど、成績は優秀だし、性格も明るくてサバサバしてるからクラスで人気がある。
―美和はいわゆるセフレだった。美和から望まれたらそれに応じたけど、オレから誘った事は一度もない。
美和以外にもそーゆう関係になった子もいたけど、美和も含めどの子もあまり続かなかった。
どこか冷めてる自分がいた。
「また、しない?」
美和がオレの袖を引っ張りながら誘って来るのを、軽く振り払って首を横に振る。
「ふぅん。さっき言ってたのは本当みたいね。噂はきいてたけど、彼女が出来た…って」
探りを入れる様な視線。
「うん」
前を向いたまま頷く。
「前はしよって言ったら抱いてくれたのに。つまらないわね」
溜め息をつきながら美和が言う。
――お互い遊びだったのに。
本命が出来たと言ってもまだその関係を継続したいだなんて。
…不毛だよ。
「あれ、なんか不機嫌そうな顔。悠らしくない」
オレらしい?
―…ってなんだ?
『表面は愛想いいけど、中身は結構淡白で、誰に対しても本気じゃない』
…いつかの健介の言葉が脳裏に蘇る。