隣人は雨の香り-4
中学を卒業したばかりの私にはそんな姿刺激が強すぎて、お隣さんの前に立ったまま俯く。
「あ、あのっ。私、隣に、引っ越してきた上村陽子です。ひ、一人暮らしなのでご迷惑おかけするかも知れないですが、よろしくお願いしますっ」
ここまで一気に言い、両手で包みを差し出す。
「あとこれっ、つまらない物ですが、どうぞ」
差し出した手が震える。別に何をしたわけでもされたわけでもないのに、心臓が鼓動を早く打っている。
顔が熱くなってるからきっと真っ赤に違いない。
「あー、ごめんね、わざわざ」
ひょいっとお隣さんが私の手から包みを抜き取った。
「いえっ、すみません。入浴中にお邪魔して」
声が震え、急に恥ずかしくなり頭を下げる。
「いや、良いよ。っていうか顔上げない？」
苦笑いをしているような声。
「いえっ、無理です。あの、裸とか見慣れなくて、鼻血出そうなんで」
精一杯そう答えるとお隣さんは楽しそうに笑って、じゃあ中に入るかなと呟いた。
「はい、是非。まだ３月とは言え風邪を引かれると困ります」
「そうだね。じゃ、また。あ、回覧板は抜かして良いから。あと一人暮らしで困ったらおいで。あんまり居ないけどね」
良かった。こっちのお隣さんは良い人だ。
ドアが閉まるまで待って顔を上げる。ほっと息が漏れて、胸を撫で下ろした。
でも結局、顔を見れなかった。
都心って本当に怖い。まさかバスタオル一枚なんて思わなかった。
「さて、片付けしないと」
伸びをしてドアまで戻り、ドアノブを回す。開くはずのドアは動かない。
「あ、れ？」
顔から一気に血の気が引いていく。ドアノブをガチャガチャと動かしてみるが、一向に動かない。
「え？えっ？」
冷や汗が背中を流れた。
「もしかしてオートロック？」
鍵は……、バッグの中。目の前が真っ暗になる。
「あぁー……」
小さな声で呟きその場にしゃがみ込む。
都心のマンションの廊下に一人。
お財布と携帯と鍵は中にあって、この辺りの地理にも詳しくない。
近くに知り合いも居なくて……。