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いつか、目の前に
【コメディ 恋愛小説】

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風に連れられて…… (誘い)-2

土曜日、寝不足感が否めない中、はやる気持ちに上四方固めをきめながら約束の時間を今か今かと腕時計をちらり、携帯をちらりしつつ待っていた。
俺の家から歩いて5分たらずにある特急も止まる大きい駅、そこの東口に正午に待ち合わせしている。
まだ約束の時間には10分ぐらいの猶予がある。
というか実の所、俺はもうかれこれ2時間前にはこの場所で待っていたりする。だって落ち着かないんだもん。
(ピッピー)
乾いたクラクションが後頭部方面から俺を呼んだ。
振り返る。
白い軽自動車、その運転席には。
「北山君、待った?」
ミナモが居た、後部座席にはベービーシートにマナミちゃんが座っていた。
「七鳥さん免許持ってるんだ?」
「マナミがいるから外出には車が必要なの」
「え、でも年齢が……」
ミナモはふふふと上品に笑った。
「私、四月に18才になったのよ。忘れてたの? 北川君より一つお姉さんなのよ」
そういえばミナモはマナミちゃんを身ごもったから一年間休学してたんだっけ。
「でも免許取れてからまだ半月も経ってない超初心者ですけどね」ミナモはニッコリと笑った、俺は少しだけ背中に冷や汗が流れた。
「早く乗ってください、他の車に迷惑なので」
「え、あはい」
言われるがままに助手席に滑り込む。
「では行きますね」
笑顔だったミナモの顔は真剣な顔になった。こんな表情をみるのは初めてだった。


ミナモの運転はそんなに悪くはなかった。
ただ、あまりにも真剣すぎて話しかけづらかいのが難点である……
「北川君はお昼まだ?」
俺の心情を知ってか知らずか、ミナモが会話を振ってくれた。
「え、いや。そういえば朝飯も食べてなかったな」
「よかった、私もまだなんです。よかったら食べに行きませんか? 近くに行きつけのレストランがあるんです」
「も、もちろん。七鳥さんの行きつけだったら絶対美味しいですよね! あ、でもドレスコードがあるような高級店とかじゃないですよね?」
ミナモはクスッと笑って「そんな堅苦しいお店は好きじゃないんです」と言って交差点を右折した。
「私ってそんなお店に行ってるように見えるんだ」
「いや、家がお金もちだったらそういう所へ食べに行ってるっていう俺の勝手な先入観なんですけどね」
ミナモはさらにクスクスと笑ってみせた。
「じゃあ北川君はびっくりするかもね」


確かにびっくりした。
何せ、かなり大衆的なイタリア料理店だったのだ。
お世辞にも綺麗と言い難い外観、壁が所々ひび割れている。
食品サンプル達も一様に古くからそこに鎮座しているらしく、かなり黄ばんで来ている。
ただ、値段はかなり庶民の味方をしているようで、高校生である俺の小遣いでも楽に三人前は払い切れる。なんだったらデザートを付けても大丈夫だ。
「どう? 私の行きつけを見たご感想は?」
車からマナミちゃんを抱き抱えてミナモは俺の横に並んだ。
ショウケースに並んだ二人と赤ん坊が写った、我ながらなかなか似合いの二人ではないかと思う。
「じゃあ入りましょうか?」


「お〜、あれは北っちではないかにぃ〜」
順一達が入ろうとしているレストランに道を挟んで向かい側、有名ファーストフード店。そこで東山、南原、そして西口の三人が昼食を取っていた。
「はあぁ? どこに?」
「あそこだね、向かいの店のショーウインドウ見てる」
南原はチーズバーガーを頬張りながらいまだに目標を見つけられずにキョロキョロしている東山のために指さして見せた。
「でも女の人と一緒にいるけど? もしかして例のあの彼女かに?」
こちらからは背中しかみえないため、顔が確認できない。
いつも見慣れている順一ならば見れば一発でわかるが、そんなに親しくもないミナモの背中姿などみてもいまいちピンと来ない。
「だとしたらやるな、北川の奴。くそ一人だけ楽しみやがって」
手に持っていたコーラをバンと机に叩きつけた。すこし中身がこぼれたがそんなことは気にしない。


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