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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの手紙-2

「お前、名前は?」
「へ?」
「名前だよ、名前っ!」
「ひ、ひじり…」
「ふぅん…」
(そういえばそうだったな…)
「ガキ!」
「え?」
「母親が恋しいだなんて、お前、まだまだガキだなっ!」
「そういう自分だってガキじゃないっ!」
「俺はそんなにわんわん泣かねぇもんっ!犬みてぇ!」
「犬じゃないもんっ!」
ヒジリは俺の言葉にいちいち素直に反応して、顔を真っ赤にしている。
「ポチ、お手!」
「ちっがぁぁう!!!」
掌を出すと、今度はムキになって叩いてきた。怒った様に頬を膨らませながら…
(コイツ、面白ぇ…)
「ははっ、そんな赤い顔しちゃってさぁ…ホント、ガキ!」
ヒジリの様子があまりに可愛くて、俺はついつい悪ノリしてしまったみたいだ。あまりにおかしくて笑いが止まらない。
いつの間にかヒジリも笑っていて、深夜の病室には俺達の笑い声が響いていた。

「あはははっ……はぁ…疲れた。」
笑い過ぎたヒジリの目には、一度引っ込んだ涙がまた溜っている。
「ねぇ…名前教えてくれない?」
「は?名前?俺の?」
「うん!だって、お隣さんなのに名前知らないなんて変でしょ?」
(名前なんか教えたって…)
「……俺は犬に名前知られてなくても、構わないけど。」
「そんなんだから、友達出来ないのよっ!」
(出来ないんじゃなくて、作らないんだけどな…そんなの要らねぇし…)
「……コウキだよ。」
(まぁ、コイツとなら…友達になっても良いかも知れないな…)
何故かは分からないけど、ヒジリなら俺を忘れないで居てくれると思った。退院しても、ずっと友達のままで居てくれる様な気がした。
例え俺が先に居なくなったとしても…


一度話をしてからというもの、俺は自ら進んでヒジリと話す様になった。暇さえ有れば、ヒジリをいじって遊んでる。
最近の俺は、毎日が楽しくて堪らない。以前の俺では考えられない程だ。


「ねぇ、ママぁ…ヒジリ、お花見がしたい!」
春が近付いて暖かな陽気が続いたある日、ヒジリが目を輝かせて母親に言った。
「じゃぁ、桜が咲くまでに元気にならなくちゃね!」
「うんっ!」
ヒジリはどうも花が大好きみたいで、桜だけじゃなくて、お見舞いの花をも心待ちにしている。
その事を知っていたから、俺はそれから毎日窓の外を見ては、桜の花を探していた。


俺が窓の外に桜の花を見付けたのは、それから数日後の事…まだ少ししか咲いてないけど、俺が教えてやると、ヒジリは大喜びでその花を眺めた。
「桜だぁっ!キレー!」
ヒジリの様子を見ていると、俺まで嬉しくなってしまう。
「もうすぐ満開だな。」
「うんっ!楽しみだなぁ…」

その時ふと、先日ヒジリが母親に言っていた言葉を思い出した。
『ヒジリ、お花見がしたい!』
(一緒に花見が出来たら…きっと楽しいだろうな……)
「なぁ、ヒジリ…」
「ん?」
「退院したら、お花見しよっか!」
「ホント!?約束よ?」
「約束な!」
俺がそう言うと、ヒジリはとても嬉しそうに微笑んだ。


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