ワスレモノ-1
人がたくさん集まるところは嫌い。
人間の臭いがするから。
体が密着するから。
でもどうしても早く見たかった。
その文字の配列を見たとき世界は音をなくした。
そのまま覚束ない足取りで人集りから離れて、しばらく放心状態だった。
気が付くと隣に結城君がいた。
ただそれだけなのに私は心を取り戻した。
ちょっと苦しくて、それを悟られないように笑ってみせた。
この人には嘘は通用しないことくらいわかってる。でも何も言わないでくれる。
「近からず、遠からずってとこかな‥。」
千葉君も、結城君も‥‥。
この距離も、この想いも‥‥。
結城君はただそうだねとしか言わなかった。
私の気持ちが全てわかってるような、何も知らないような‥‥そんな言い方。
もう千葉君とああやって話すこともないのかな‥。
そう思ったら視界が霞む。必死に平然を装って
「これで見納めかな‥」
そう言って、言い聞かせるようにしてそこから去った。
ふと見ると立ち尽くす彼の姿が‥。
もう話すことはないだろうと思っていたから、なんとなく最後に声が聞きたくなった。
「千葉君、クラス隣になっちゃったね。理系だから一緒になれると思ったのに‥。」
実は本当に期待していた。なのに‥隣かぁ‥。
自分の言葉を思い出して顔が赤くなる。
これじゃ一緒のクラスになりたかったのがわかってしまう‥。
『そうだね。でも圭佑と同じクラスでよかったじゃん。』
あぁ‥
気付いてない‥。
いっそのこと気付いてくれればいいのに。