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カーテンと机とつぶれた気持ち
【青春 恋愛小説】

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カーテンと机とつぶれた気持ち-1

誰もいない教室。
傾いた夕日からは光りが届かない。薄暗く、白くて、少し紫がかっている。

窓側の一番前の席。
授業中は私の愛しい人が座っている席。その机に頬ずりするように、抱き締めるようにうなだれている私。

私の心はまるでプールの中に沈められたよう。
となりの教室から聞こえる楽しそうな声は、水のゆるい振動が私の鼓膜に届けるみたい。

少し開いた窓からは心地よい冬の風が私の頬を優しく刺す。風に揺れるカーテンの裾が耳を撫でてくすぐったい。





いつからだろう。私がキミを目で追うようになったのは。
キミは特別かっこいいわけじゃない。どちらかと言えば冴えない印象だ。いつも寝癖のついたくしゃくしゃの猫毛。地味の象徴とも言える黒縁眼鏡。急いで来ましたと言わんばかりのだらしない制服。

でも私はあの時のキミを見てから、もう特別にしか見えない。


私の席はキミの斜め後ろ。こっそりキミを盗み見るベストポジション。

席替えをした当時はまだ、キミのことなんか意識してなかった。
でも冬のよく晴れたあの日。見てしまったんだ・・。私はあの瞬間、初めて人に見惚れた。この世界のどの絵画よりも美しく、どの景色よりも鮮やかで、私の瞳は他のものを映すことを忘れた。

キミはただ真面目に授業を受けていただけだ。
でも先生が黒板を消した時に舞うチョークの粉が冬の日差しにキラキラ輝いて、キミの美しい横顔を演出する。
黒板とノートを行き交う視線。その度に舞う塵がキミを余計に綺麗に映す。
不健康そうな白い肌も、その白さを際立たせる黒い眼鏡も、見たものを理解しようとするその鋭い視線も、キミを形成するすべてのものが美しかった。
その瞬間はまるで切り取られた写真のように私の記憶に鮮明に残っている。

その日からキミは私の特別になった。

「今日は雨みたいだね」

キミがそう言うなら例え雨が降らなくても、私の日記の天気欄には傘のマークが描かれるだろう。

「山田さん」

キミが呼んでくれたから、一般的に代表される私の嫌いな名字も素敵な響きを奏でる。

もう後戻りできないくらい好きになっていた。





でも・・・

見てしまった。



私はキミの一番美しい笑顔を。

愛する人に向けたこの上なく幸せそうな笑顔を。

私ではなく愛しい人に向けた笑顔を・・・。


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