ある淫魔のライフスタイル〜堕ちた女魔族ヴァネッサ〜-2
「この街の人間は全部あなたの獲物ってわけ?」
「そうじゃない。今の僕は人間の側だということです。」
「は……?」
ジェイドの言葉にヴァネッサは意味が分からないという顔をした。
「アナタ、魔族のクセに人間の味方をするって言うの?」
「そうです。だからアナタが街の人に手を出すというのなら僕も黙ってはいませんよ。」
「ふぅん……なるほどね……」
相容れない二人の視線がぶつかり合う。朝の喫茶店には似つかわしくないピリピリ空気が立ち込める。異様な雰囲気に気付いた客たちが興味深そうに二人を見ていた。しかし一触即発のこの状況は意外な形で破られることになった。
「ちょっとジェイド!何なのよこの女は!!」
「え……?」
背後からの怒声に振り向くと、そこにはいつの間にかやって来ていたミーティが仁王立ちになっていた。
怒りの形相を浮かべるミーティにジェイドがたじろぐ。
「ミ、ミーティさん……いつからここに……?」
「今よ!!そんなことより何なのよ、この女!!」
「あ……いや、その……」
「言えない様な相手なの!!」
ものすごい剣幕で怒るミーティ。今にも掴みかかかりそうな勢いだ。普段のミーティならすぐにヴァネッサの正体を見抜いただろうが、今の状態ではそれは無理な話だ。
「説明しなさ〜い!!」
「ひぃ〜!?」
とうとうミーティはジェイドの胸ぐらを掴むと、ガクガクと揺さぶり始めた。
荒れるミーティの様子を見つめるヴァネッサ。その瞳には怪しい光が宿っている。
「アンタも何とか言ったらどうなのよ!!」
ミーティがジェイドを掴んだままヴァネッサに向き直り、キッと睨み付ける。ヴァネッサは椅子から立ち上がると不敵な笑みを浮かべた。
「アナタ……美味しそうだわ……」
ヴァネッサはミーティに急接近すると顔を覗き込んだ。
「は……?何言って……っっ!?」
チュッ
ヴァネッサの唇がミーティのそれに重なった。
「なっ!?なななっ!?」
突如唇を奪われたミーティは言葉を失い、あわてて後ずさる。
「フフ……美味しい……」
舌舐めずりするヴァネッサの姿にミーティの顔が青ざめる。
「今日はこれくらいにしておくわ。でも次は……アナタの全てをいただくわ。」
「は……はぁ?!」
まったく意味が理解できないという顔をするミーティにヴァネッサは背を向けると、そのまま出入り口に向かって歩き出す。
そしてドアの取っ手を掴むとミーティに向かってウインクをした。