貴方の妻にしてください3-2
「ピンポーン」
夫となる一也のお帰りだ。
「お帰りなさい、一也様」 京香はカルテリスト通りにドアを開けるなり後ろにさがり、玄関のフロアに膝をついて頭を下げる。
「うむ。」そういうと一也はドアを後ろ手に閉めて鍵をかけた。
カチャッという鍵の締まる音を聞きながら、頭を下げたままの京香は次の指示を待つ。
「京香」 一也が名前を呼んだ。
「はい」 頭を上げずに返事だけを返す。
「来なさい」 一也は初めて訪れる「我家」にいかにも頭首のように入っていった。
京香は静かに立ち上がり黙って一也の後を追う。
一也がまっすぐ向かったのはリビングでなく寝室だ。
「ベッドの方を向いて立って」
「はい」 京香はベッドサイドまで歩き、一也に背を向ける形になった。
「これをはめて」
渡されたのは軍手のような手袋だった。
「手をうしろに貸しなさい」
「はい」 その通りにすると、手首を掴まれて硬い金属の感触がしたかと思うとカチャッと何かが閉まる音がした、そしてもう片方の手首にも感触とカチッという音。
手錠だとすぐに分かった。
手袋は跡形が残らないためか、痛くないようにとの気遣いなのか。
後ろ手に手錠をかけられて身動きが取れない。
そのまま立ち尽くす京香の背を、一也はトンと突いた。
「あっ!」と思わず声を出して、京香はベッドにうつ伏せのまま倒れた。
咄嗟に顔だけを横に向けて、跳ね上がる体に肩までの髪が乱れて顔にかかる。
しかし、京香には返事以外の言葉は禁じられている。それが一也の希望だ。
「トイレには行ってないだろうな」
「はい」
ベッドにうつ伏せに倒れこんだままの京香のスカートを捲り上げ、ゴワゴワの紙パンツの中を確認している。
ゴムを広げ、しりを覗かれ、濡れていないか手触りで確認する。
京香は自分が子供たちにしてきたオムツの世話を今されている。
とても奇妙な感じである。
一也は確認だけするとそのまま京香を残して、自分は浴室に向かったようだ。
次の指示もないままには身動きの取れない京香は音だけで一也の行動を追った。
浴室のドアが開いた、閉まった、シャワーの音だ・・・。
しばらくするとまた、ドアが開いて閉まった。
ドライヤーの音はしない。
着替えは脱衣籠に用意してあった。といってもバスローブだけだ。
下着も着替えも必要ないとリストアップされていた。
足音がキッチンへと向かった。
冷蔵庫が開けられているらしい、しばらく物色しているのか長い時間たってからパタンと閉じられる音がした。
プシュッ
ビールを開けたのかな・・コーラかな・・缶のプルトップをひいた音だ。
コン・・
あ、テーブルに置いたんだ・・・。
ベッドにうつ伏せて顔だけ横にしている京香からはベッドの枕元のスタンドと壁が見えるだけで、後ろの和室の隣がリビング、さらにその奥がキッチンだ。
音だけで一也を意識するのに集中する。
カチャカチャ、トントン、ジュージュー、ジャージャー
何やらにぎやかな音と共に、いい匂いがしてきた。
今日の献立は・・・これもまた、材料を適当に買い揃えておく。
そういうだけの要望だった。