impertinent teachar&student−6-1
「美雪…」
確かに俺の目の前にいるのは、紛れも無くあの美雪だった。
「うわぁ〜久しぶり。…ってあんまり気軽に声かけれる立場じゃないっか」
にこにこ笑いながら話す。
あの頃と変わらない笑顔。
俺を安心させてくれる。
「いつ…こっちに来たの?」
ぎこちないけど、笑顔を繕う。
「えっと…一週間ほど前かな?」
彼女が指折り数える。
「そっかぁ…」
しばらく立ったままの二人。
以前には考えられない位静かな時間が流れる。
彼女を見る。
相変わらず、魅力的だった。
懐かしくて、俺は泣きそうだった。
「…そこの喫茶店にでも入らない?立ったままだったら、二人とも濡れちゃうし…」
「そうだな」
彼女の提案に賛成することにした。
別れても、俺は彼女の言うことは聞くんだなと心の中で笑った。
「ご注文、どうぞ」
俺らは、チェーン店でも有名なコーヒーショップに入った。
「う〜ん…じゃ、私はホットココア。レギュラーで。聖は?」
「俺はブラック。レギュラーで」
愛想のよいお姉さんに頼む。
「はい。ご一緒でよろしいですか?」
「はい。」
俺が答え、素早く財布を出す。
「暖まるねぇ〜」
美雪がカップを両手で包むように、ココアを味わう。
「あ、さっきのココア代…」
「いいよ、ココアぐらい」
鞄から財布を出そうとする彼女の手を制す。
「でも…」
「こう見えても、働いてるから」
「そっかぁ…そうだよね」
付き合っている時は、外にご飯を食べに行くと、店では俺に払わせるが、後から絶対自分の分を俺に渡していた。
年上のプライドなのか。
学生だから気を使ってくれているのかは、分からなかったが、彼女はきっちり払ってきた。
これだけは、好きになれなかった。
だから、いつも材料だけ買って、彼女に料理を作ってもらって過ごした。
「聖も働いてるんだ…えっと、2年振りだっけ?今年いくつになるっけ?」
「24歳。」
「うわぁ〜じゃ私は29歳だ!嫌だなぁ〜年を取るのは」
アハハと笑う。
何にも変わっていない。
笑顔も。
雰囲気も。
体形も服の系統も。
ただ、変わってしまったのは、俺と彼女の距離だった。
「なんでこっちにいるの?実家に帰ったんだろ?」
単刀直入に言った。
「うん…そのつもりで、帰ったんだけど…」
さっきまで笑顔だった彼女の顔が曇る。
「帰ったら…婚約者が、別に彼女作っていて…家を出てたらしいの。」
「じゃ、なんですぐこっちに来なかった?」
「それは…出来なかった。親に申し訳が立たない。私は、長女なの。本来ここにいてはいけないのよ…」
「…なら、俺の気持ちはどうなるんだよ」
「…え?」
「俺は美雪と別れても、忘れられずにいたんだよ。…なぁ今からでも遅くない。こっちに来て結婚しよ?」ビックリした表情の彼女を俺はじっと見た。
気付いたら、彼女の腕を掴んで車に乗せていた。