impertinent teachar&student−6-3
美雪とは一緒に住むことになった。
元々、そんな狭い部屋でもなかったのでよかった。
美雪がいてくれたらいい。
その時はそう思っていた。
美雪と再会して2日後のことだ。
コンコン。
ドアをノックする音がする。
「はい」
「失礼します。この間の課題、持ってきました」
両手にクラスメイトのノートを抱えてやってきたのは、真田だった。
「あ…ありがとう」
俺は誰が見ても分かるくらいに焦っていた。
「失礼します」
そんな俺を他所に、真田はいつも通り冷静に、挨拶をして出て行こうとする。
「まっ、待ってくれ」
気付いたら、真田を呼び止めていた。
「…なんでしょうか?」
冷たい声。
笑いかけていてくれた頃が、昔の様に感じる。
俺は美雪と結婚する。
それを伝えるんだ。
なのに…
なぜ、その一言が言えないんだろ?
「先生、当ててあげましょうか?言いたいこと」
「…え?」
「先生はこう言いたいんじゃないんですか?『俺には他に好きな人がいる。だから、お前の気持ちには応えられない』と。」
冷静に。淡々と話す。
「なんでわかったって顔してますね?分かりますよ。だって私、先生と彼女さんが歩いてるとこ、見ちゃったんですもん」
びくっ!
思わず、体が震えた。
誰に見られても良かったが、何故か真田には見られたくなかった。
俺は思わず、煙草に手を伸ばす。
「…禁煙、しなくていいんですか?」
「…は?」
「彼女さん、煙草嫌いなんじゃありません?」
なんでそんなこと、分かるんだ…?
「なんでそんなこと分かるの?って顔してますね」
くすっと笑う。
何でもお見通しといった表情だ。
「分かりますよ。だって…私が好きになった人ですもの」
俺の目を見て言う。
目は潤んで、今にも涙が零れそうだ。
「以前、禁煙したことあるって話してくれましたよね?それはその彼女さんに止められたからでしょ?なのに…今は?今、煙草吸おうとしたじゃないですか」
確かに。真田の言う通りだった。
なんであんなにも好きだった美雪の頼み事が、今は守れないんだろ…
「先生?私、先生に禁煙しろなんて言いません。先生に無理させない。先生の夢も応援する!先生は本当はエンジニアになりたかったんでしょ?なら…」
「もういいよ。ありがとう」
今までにないくらい、優しく諭すように真田に言った。
「ありがとう。そんなに俺のこと考えてくれて。真田は優しいな」
そう言って、俺は真田の頭を撫でた。
すると、真田は泣き出した。
「せん…せいだからですっ。先生だから…傍にいたいって思うんです」
流れる涙を手で拭いながら話してくれる。
「どうして君は…そんなに優しくしてくれるんだ?」
思わず聞いてみた。
「分かんない…分かんないけど、傍にいたいって思ったんです!ねぇ、先生を好きって気持ちに理由を付けなきゃダメですか?」
上目で俺を見る。
「ありがとう…」
そう言って、俺は自然と…
真田を抱きしめた。
この気持ちは…同情か?
それとも…
恋なのだろうか?
俺の腕の中で泣く真田を見ながら、そんなことを思った。