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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-83

 補習が終わると、大和はすぐにバッティングセンター“豪快一打”を訪れた。かなり以前から大和も世話になっている施設であり、建物そのものは古びた印象を受けるが、機材は常に最新鋭のものを揃えているあたりに店長の気概を感じさせる。
「居た」
 “アクティブ・スペース”と銘打たれたブースの中で、バットを構えている結花を見つけた。このスペースでは、試合での打席を体感できるように、変化球を織り交ぜた配球で打者を責めてくるのだ。より実践的なバッティングができるというわけである。もっとも、変化球は曲がりの悪いカーブとチェンジアップしかないので、それほど気合を入れなくても楽しむことは出来るようになっている。そのあたりは、営利にも気を使っている。
「わっ!」
 大和が、結花が入っているブースの真後ろに来た時、彼女はその曲がりの悪いカーブを豪快に空振りしていた。
(おや)
 その一振りだけで、大和は違和感を覚えた。しかし、そのまま静かに結花の打席を見守る。

 キン!

 ストレートは問題なく、綺麗に弾いた。だが、やはり大和は結花のスイングに少しばかり気になるところを見つけていた。
「えい、えい、えい!」
 三球続いたカーブを、空振り、ファウルチップ、空振りという結果に終わった結花。どうも、変化球にタイミングをつかめていないらしい。
「とりゃ!」
 かたや、ストレートに対しては鋭い当たりを見せた。
「………」
 映像の投手が消えた。どうやら、所定の球数を使い果たしたらしい。
「あっ」
 そこで初めて結花は、大和に気がついた。
「センパイ!」
 とても嬉しそうに、彼女は笑顔を見せる。その裏にある女心には、当然だが大和は気づいていない。
「結花ちゃん、スイング変えたの?」
「えっ」
 とりあえずブースを出てきた結花に、早速大和は感じた疑問を差し出した。
「少し、振りが大きくなっていたから。それに、グリップも余さないようになっていたみたいだし」
「そ、そんなことまで、もうわかっちゃったんですか?」
 グリップの部分は、注意してみればすぐにわかるとしても、相変わらず野球に対する大和の眼力は凄まじい。
「ちょっとパワーのある打撃を目指したんですけど……」
「なるほどね」
 どうりで、バットを長く持ち、スイングが大きくなっていたわけだ。
「そうしたら、変化球がさっぱり待てなくなりました」
「まあ、そうだろうな」
 大きいスイングは、緩急に弱い。ストレートに対して、強烈な打球を放つことが出来ても、変化球を軸に配球を組み立てられたとすれば、その脆さははっきりとする。
「どうして、また?」
「あ、あの……夏の大会で、ホームラン打ったんです」
「そうなんだ、すごいじゃないか」
 軟式野球の大会も、“隼リーグ”が行われる城央市営野球場で行われる。その球場のスタンドに、この細身の少女が打球を運んだというのだから、確かにすごいことだ。
「とっても、気持ち良くて……それで、もう一回、打ってみたくなっちゃって……」
 いつのまにかスイングが大きくなっていたという。そして、それから、変化球に対してめっぽう弱くなり、打撃の調子を落としてしまったと彼女は続けた。
「打てなくなった理由、はっきりしているじゃないか」
「………」
「自分のいいところを、殺してる」
 以前の結花は、バットを短く持ち、小さな構えから鋭く、そして粘っこいスイングを信条としていたはずだ。そうして、ボールを転がせば、後は自慢の脚力で内野安打を狙う。単打でも、盗塁でたちまち好機を広げることもできる。それが結花の、最大の武器だったのだから。


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