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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-82

 出会いは、最悪だった。なにしろバス内で痴漢と間違われたのだから。しかしすぐにそれが勘違いと気づいた彼女は、公衆の面前であるにも関わらず何度も何度も頭を下げてくれた。
 勝気このうえないが、過ちを悟れば素直な少女である。雌鹿のような俊敏さを生み出す二の足は、ほっそりとはしているものの、ひ弱さを感じさせず、軽量であるはずなのに非常に安定した腰まわりも、バランスの良い体つきを思わせた。実際彼女は、中学校時代は陸上の走り幅跳びで全国大会にも出場した経験があり、運動能力は学年の中でも抜きん出たものがある。体育祭では、どの競技にも彼女の名前が顔を出し、“結花祭”と呼ばれたりもしたほどだ。
 だが、結花は陸上よりも野球が好きだった。父親が熱狂的な東京ガイアンズのファンだったから、父親にべったりだった結花はその影響を大きく受けたのだろう。父親の膝の上に乗りながら、テレビの中で繰り広げられる熱戦に夢中になっていた小さな頃の結花だった。
 ただ、結花が通っていた中学は、山間の小さな学校だったため野球部がなく、ほとんど唯一の運動部である陸上部に入らざるを得なかった現実があった。故に“陸上で有名なところに進み、あわよくばオリンピックへ”と嘱望されていたにも関わらず、彼女は女子も参加できる軟式野球部のある久世高校を選んでいた。陸上の成績を思えば、その進路を惜しむ声が大きすぎて、彼女自身も悩んだ時期はあったが、彼女の父親が放った“娘のことは、娘が決める! 誰も横槍を入れるな!!”という一声で、周囲は完全に沈黙し、結花もその迷いを払うことが出来た。
 その俊敏な運動能力は、特に守備で発揮された。軟式野球部で彼女は、1年のときから並み居る男子を押しのけて二塁手のレギュラーを務めている。
 ボールの違いこそあれ、同じ野球をしているという事実は、最悪な出会いにも関わらず、二人を急速に親しくした。だが、勘違いをしてはいけない。結花と出会った当時、大和は既に水野葵という年上の恋人がいたから、あくまで“先輩・後輩”にプラスアルファを加えた関係である。
 肘を壊し消沈していた大和は、葵から安らぎをもらい、この結花からはバイタリティをもらったと今では思っている。世間が自分の事を忘れ、野球がなければ存在価値のないような目線さえ向けてきた周囲の空気の中で、片瀬結花という後輩の存在は救いであった。
「今日、部活は?」
「オフです」
「そうなんだ」
 軟式野球部はどちらかというとレクリエーションの範囲を出ない。監督である生物講師の美作は、大会の結果に躍起になることはせず、むしろ教育の一環として軟式野球部の活動を行っていた。“無理なく、ソツなく、のびのびと”が部訓という開放的な雰囲気は、だからといって部活動がだれたものになるかというとそうではなく、生徒の自主性を高め、それぞれが自己の役割を確認しあって、自ら考えて動くというスタイルが、軟式野球部の健康的できびきびとした明るさを生み出していた。
 ほとんどが素人の集団である。故に、チームは弱い。経験者が何人か門を叩くことはあっても、その温さに耐えられなくなったのか、すぐに硬式に転部してしまうことが多かった。また、いくら自由で楽しそうな雰囲気があっても基本的には体育会系だ。その空気に惹かれて入部したとしても、その点でついていけなくなってやめる者も多い。
 自由だからといって、勝手が出来るわけではないのだ。野球が好きで、体を動かすことが好きで、チームワークに馴染もうとしなければ、むしろこの軟式野球部は敷居が高い。
「で、やっぱりダメですか?」
「うーん」
 結花の陰を見てしまった大和としては、それを放っておくことも出来ない。
「30分だけなら」
「わっ、ありがとうございます!」
 結花の顔が、いつも以上に眩くなった。彼女は喜怒哀楽がはっきりと映る少女だ。その点は、桜子に似ているといえる。ただ、直情的で鋭角的な雰囲気が、どちらかというとまろやかで穏やかな感じもする桜子とは違う。当然ながら、包容力があって常に優しさに満ちていた葵とは、正反対の結花である。
「多分、私のほうが授業先に終わっちゃうから、現地で待ってます!」
「あ、ああ」
「うわは! やりぃ!!」
 まるで羽根でも生えたかのように、喜びに跳ねる結花。まるで“妹”を見るような眼差しで、大和はそんな結花を眺めていた。


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