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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-272

 婚約していた恋人を、結婚間近に事故で喪った青年。深い悲しみに沈む彼を、ずっと見守ってきた恋人の親友。大事な人の死を共有する二人は、やがて慰めあうように、互いを必要とする関係になる。
 しかし、幸せな時間を過ごそうとすれば、死んでしまった彼女のことが二人の間に陰となって現れる。その陰はやがて、愛し合い求め合いながらも、別れの選択を二人に決意させるまで深くなる。
 とうとう、その話を互いに切り出そうとした中で、タブーとしていたはずの死んだ婚約者の思い出話が、思いもかけず溢れるように出てくるのだった。
 映画はその三人でいた時間と、想い出の回想をメインに進んでいった。
(………)
 物語を追いかけながら、大和は深い考えの中に沈んでいた。形は違うが、喪失から始まる愛の形と葛藤は、それはそのまま、自分が体験してきたことに他ならない。
 だから、求め合いながらも陰を抱え、愛し合いながらも素直にその幸福を受け入れられない二人の姿には、共感する想いがあった。ただ、自分の場合は、映画の結末のように、“陰”を乗り越えることは出来なかったのだが…。
 結末は、いわゆるハッピーエンドだった。あえて触れてこなかった思い出話を繰り返すことで、互いを真に求め合っている事に気づき、二人は葛藤を乗り越えた。ありふれたラストといえば身も蓋もないが、後味の悪い終わり方よりは遥かに良い。
(それにしても…)
 エンドロールが流れる中で、大和は隣の桜子の様子に思わず頬が緩む。
「うっ……うぅっ……うぅぅ……」
 彼女の涙腺は堰を失っており、嗚咽が漏れないよう必死になって口元を抑えていた。ちなみに、空いている片方の手は、いつのまにか自分のそれと重ね合わさり、強い力で痛いくらいに握られている。
 その手は、映画館を後にしてからも、ほどけなかった。
 そのまま、夕暮れの薄闇を纏い始めた街の中を歩く。繁華街を抜け、ジョギングコースにもなっている市立公園の遊歩道を辿り、気が付けばそれを何周もしていた。言葉数が少なかったのは、映画の余韻に浸っていたからといえなくもない。
「ねえ…」
「うん?」
 ベンチに腰を下ろして、夏の日暮れを待ちながら、静かな時を過ごす。しばらく後、桜子からの問い掛けがその沈黙を穿った。
「あんなふうに、受け入れられるものなのかな」
 映画のことを言っているのだろう。
「好きな人が、突然いなくなったら……」
 新しい恋なんて、考えられない。最後まで出なかった言葉は、そう繋がっている。
「………」
 少し触れたが、映画の中で織り成された展開は、大和が経験してきた恋と似た顛末である。
 肘を壊して野球から遠ざかり、リハビリを重ねる中で巡り会った少女・葵との恋。そして、二人を繋ぎ結び付けてくれた彼女の弟・和也の存在と、突然の死別…。葵の中にできてしまった陰を、丸ごと受け止めるつもりで関係を深めたが、結局は背負いきれずに別れの結末を迎えてしまったこと…。
 そして葵は、大和の前から姿を消した。連絡先も、進学先も、何も告げないまま卒業して街からいなくなり、そのまま二人の関係は消滅してしまった。大和がそれを強いて追いかけなかったのは、彼自身も二人の間に潜む“陰”に疲れてしまったからだろう。今思えば、それは逃げているだけでしかなかったのだが…。
 だから、映画の余韻はむしろ、大和の方に強い感傷を与えていた。それが、桜子の気持ちを試すような問いとなって顕れた。
「想像してみたら、どう?」
「え?」
「僕が急に、ここからいなくなったら…」
「そんなの、やだ…」
 ぎゅ、と重なっている手のひらに、力が篭る。
「そんなこと、想像できない。したくなんかないよ…」
 彼女の答えは、望んだ通りのものだった。分かっていながら、試すようなことをする自分の狡さを、大和は少しだけ反省する。


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