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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-26

 京子が打席に入った。そして、気合を高めるように相手を睨みつけながら、バットを構えた。
(ふぅむ……)
 その構えに対しても、大和は感嘆の声を漏らす。頭の天辺から一本の軸が引かれているように、京子のバッティングフォームはブレがない。バットを短く持って、コンパクトに構えているから、どのコースに対しても最短距離でヘッドが廻るだろう。
「ボール!」
 初球はアウトコースに大きく外れた。
「ボール!!」
 二球目も全く同じ。
「ボール!!!」
「?」
 そしてなんと、三球目もまたストライクゾーンが何処なのか忘れてしまったようなボール球であった。
「ボール! フォアボール!」
(なっ!?)
 驚くべきことに、四球目も選ぶ必要がないほどはっきりとわかるボール球。事ここに至れば、四球全てのボール球は、相手が意図して投じたものだと思いつく。
 唖然としたように京子は、主審に促され、釈然としないまま一塁へと向かう。一塁の守備についている松永が、不敵な笑みを絶やさずにそんな京子を待ち構えていた。
「あんたにしては気前がいいじゃないのさ。ただで塁をくれるなんてさ」
 はっきりと勝負を避けられたことへの皮肉である。おそらく、この松永から指示が出されていたのだろう。
「投資は更なる利益への布石ですよ。ビジネスの基本ではありませんか」
 しかし、皮肉にも松永は堪えた様子を見せない。京子は暖簾を押したような肩透かしに、わかっていたとはいえ、その勢いをそがれた。
「正直な話、このチームで怖いのはあなただけですからねぇ。まぁ、原田さんもちょっと気をつけなければいけないでしょうが……あの人は、穴が多いですから」
 不安要素は徹底的に排除する気らしい。そのひとつが、京子との勝負を避けることなのだろう。確かに以前に対戦したときは、京子ひとりが気を吐いて全打席安打を放ったから、それを松永は警戒しているのだ。
「それにしても……」
 松永はため息を吐く。
「あなたといい、次の打者といい、ドラフターズの男たちは頼りないですねぇ」
 3番打者として、打席に入った桜子を見やりながら、松永は言う。背丈の高さと傍目にも締まりのある肉づきの良い体格ゆえに、一目見たときは警戒の念を強めはしたが、それが女であることを知ると、松永はその用心を緩めていた。
「投げるほうでも、打つほうでも、女の人に頼りっぱなしとは」
「………」
 “うるさいよ”と口に出しかけて、相手の挑発に乗りかけた自分を京子は自ら戒めた。
「お願いしまーす!!」
 そんな一塁上でのやり取りに当然気づく様子もなく、桜子は元気一杯に打席に入っている。右打席に立った彼女は、そのままバットを握り締めて、構えを取った。
「どれぐらいのものか、わかりませんけれど。……持ち手が反対じゃ、実力のほどが知れますね」
「え?」
 京子は、桜子のグリップを見る。
(あ、あの子ってば……)
 松永の言うように、本来ならば右拳が左拳の上になるように握っていなければならないはずのグリップだが、それが見事に反対になっていた。
 桜子とて、野球に関しては無知ではない。しかし、本格的に野球を始めたのはつい最近なので、興奮が過ぎると思い出したように“素人”の部分が露呈する。
「ストライク!」
 初球、インコースに投じられたストレートを豪快に空振りしたときに、ようやく持ち手の違和感に気づいた桜子は、慌ててバットを持ち直していた。
「お察ししますよ」
 その滑稽な様に、くっくっくっ、と声も殺さず笑う松永。京子はいい加減腹が立ってきたので、相手にするのをもうやめていた。
(桜子……)
 やや力んだ感のある、愛すべき3番打者を見守る京子。
「えい!」
 そんな視線も気がつく様子はなく、外角に投じられたストレートに対し、桜子はスイングを始めていた。


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