投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 305 『STRIKE!!』 307 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-27

 ゴツン!

「ん?」
 不恰好なスイングが、ストレートを強く叩く。瞬く間にボールは空高く舞い上がり、青空とひとつに溶け合ったかのように見えないところまで届いたかと思うと、気がつけば、本塁打のラインを指す緑色のネットのはるか遠くの地点で着地していた。
「………」
 松永を筆頭にシャークスの野手陣が、言葉を無くしてその行方を凝視している。
「………」
 それは、塁間にいた京子も同様であった。
「当たった! 当たったよ!」
 打席でバットにボールが当たったことを殊更喜んでいる桜子。ふと、何かに気づいたように、打席を飛び出して一塁へと駆け出す。バットに当たった感触に浮かれ、走塁するのを忘れていたからだ。
「あ、いや……ホームランだから、慌てなくてもいいよ」
「え?」
 一塁ベースに猪突猛進していた桜子は、塁審に呼び止められ、脚を止める。“ホームラン”という単語を聞いても、しかし、桜子は現状を認識できていないようだ。

 おおぉぉぉぉ!

 グラウンドの外が沸いた。試合を眺めながら待機している他のチームが、少女でありながら滞空時間の長い、鮮やかで綺麗な本塁打をかっ飛ばしたものだから、それに感嘆していたのだ。
「え、嘘、えぇ!」
 桜子は、自らの頬をつねる。とても、痛い。どうやら夢ではないらしい。
「ホームランなの? あたし、ホームラン打っちゃったの!?」
「だから、そうだって」
 何度も訊かれ、困ったように塁審は頷いた。
「あたしが、ホームラン……」
 人生の中で初めて参加した野球の試合で、しかもその第1打席で本塁打。自分が野球に魅せられるきっかけとなった、義兄の龍介が打ち放ったものと同じ見事なアーチ。
「やったぁ!!」
 はしゃぐのも、無理はない。桜子は両手を高々と上げて歓喜を爆発させていた。
「わっ、こらっ、桜子! あたいを追い抜いたら、ホームランがパァになるって!」
 嬉々としてランニングを始める桜子が背後に迫り、それに追い抜かれるとルール上・アウトになってしまう京子は慌てたように駆け出す。
「おちつけっ、おちつけってば!」
 まるで何かに追い立てられるかのように、塁間を疾駆する京子であった。
「ふぅ」
「お疲れさん」
 本塁打によるベースランニングのはずなのに、全力疾走をする羽目になった京子は、余分な体力を使ってしまったとばかりにベンチに深く座り込んで、荒い息を落ち着かせていた。その様子を、苦笑しながら見守るメンバーたち。
 満面に笑みを浮かべる桜子に、大和は声をかけた。
「ナイスホームラン」
「ありがとう!」
「すごい当たりだったね。本当に、試合は初めてなの?」
「うん」
「そう……驚いたな」
「あたしも、びっくりしちゃった!」
 いよいよ陽気な桜子。そんな明るさが伝播して、ベンチの雰囲気も盛り上がる。
(出会い頭にしては……ふむ、さすがに甘く見たか)
 一方、思いがけない逆転2点本塁打を喫した松永は、腕だけで振り回したようなスイングにも関わらず、軽々と軟式ボールをかっ飛ばした桜子の怪力に対し、再び警戒を強めていた。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 305 『STRIKE!!』 307 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前