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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-214

 両チームの下位打線は、好機らしい好機も作れないまま凡退を繰り返した。
 制球が落ち着いた雄太のドロップは、その落差で相手に的を絞らせず三振・凡打の山を築いている。
 一方で晶も、内側を抉る快速球“クロス・ファイヤー”と、虚を突いたように沈んでくるチェンジアップを駆使して、バットにかすらせることも稀に、双葉大の各打者を牛耳っていた。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 3回裏、ドラフターズの攻撃。先頭打者を雄太はドロップで三振に仕留めた。彼も、エンジンがかかってきたようだ。
(次は、亮さんか……)
 1番に入っている亮の第二打席。少し内側に甘くなったとはいえ、曲がりの大きなドロップを痛打された記憶が桜子の中で蘇る。
(どうしようかな……)
 打者一巡してはっきりしたのは、ドラフターズの中で高い攻撃力を持っているのは、1番から3番までの打者である。 …いずれも助っ人選手だと言うのは、あえて触れないでおく。
 1番の亮は、構え・スイング・打球の全てが、別格と言って良い強打者である。なぜチャンスメイカーの役割を担う1番に入っているのか、その理由を聞きたいくらいだ。
 2番の航という選手は、上手に打球を抑えたバントといい、桜子の痛烈な打球を事もなげに捕った守備といい、その機敏な動きがセンスの高さを感じさせる。
 3番に座る晶には、その巧みなバットコントロールで適時打を喫している。勝負強さを持っており、塁上に走者を許した状況になれば特に注意が必要だ。
 ともかく、その三人を特に警戒しなければならないだろう。そして、打席に入ったのはその一人目と言うべき亮であった。
(………)
 雄太のドロップは、ますます好調である。低めに制球されていれば、それが来るとわかっていても、芯で捉えきるのは難しいはずだ。
 桜子は、そのドロップを初球から要求した。
(低めのドロップか。いきなりだな)
 しかし、相手は強打者の亮である。
「ストライク!」
 とにかく持てる最高の球を繰り出して、有利なカウントに追い込んでいかなければならない。要求どおりに初球のドロップを、雄太は低めに決めた。
 桜子からの返球を受けると、次のサインを確認するや、雄太はすぐに投球モーションを始めた。相手に考える隙を与えないためだ。細かいところでの揺さぶりも、強敵を相手にするならば忘れてはならない。
 2球目は、同じコースだが違う種類のカーブだった。スピードの緩急をつけたのだ。
「ストライク!!」
 亮は、手を出す様子も無くそれを見送っていた。
 思惑通りに、スラッガーを早々と追い込んだバッテリー。これで、あと三球は、ボールゾーンを駆使して相手を攻めることができる。いくら名のあるスラッガーでも、ボール球に手を出せば、高い確率で凡打になる。
 桜子はまず、一個分ストライクゾーンから外した外角にストレートを要求した。
「ボール!」
「ボール!!」
 微妙なコースへのストレートが、二球続いた。手を出させようとしたのだが、亮のバットは少しも反応しない。
「ボール!!!」
 決め球のつもりで投じられたドロップは、コースが外れてしまった。これもやはり、際どい位置に決まっていたのだが、亮のバットは動かなかった。
(フルカウントまで、見られちゃった……)
 次の球は、もうボールに出来ない。余裕を持って追い込みながら、最終的に追い込まれたのはバッテリーの方だった。
「ボール!!!! フォアボール!」
 状況を考えれば、インコースは完全に読まれている。かといって、アウトコースのドロップを連投しても、痛打される可能性は高い。迷いの生じた桜子は、やむを得ずアウトコースのカーブを要求したが、揺らぎのあるリードは雄太にも影響を与え、はっきりとしたボール球になってしまった。
 なんと、ひと振りもしないまま亮は出塁したのである。追い込んでおきながら振り切れず、結局は彼の前に屈してしまった。雄太の悔しそうな表情は、気持ちが逃げてカーブを決められなかった自分に対する不満の顕れだった。


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