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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-212

『桜子さんは、パワーがあるからさ。スタンスは広めの方が良いと思う』
 夏休みに入った頃、変化球に脆いという弱点を克服するため、大和の指導を受けながら桜子は打撃フォームの見直しを図っていた。その時のやり取りを、打席に向かいながら桜子は思い出している。
『重心の移動幅が少なくなって、軸もぶれにくいからね。変化球にも、対応がしやすくなるはずだよ』
 変化球に対するタイミングをなかなか掴めないのは、その変化についていけないということではない。
 彼女の優れた動体視力と瞬発力は、曲がったり落ちたりするボールの軌跡をしっかりと視界に捉えている。それを、バットでうまく叩けないだけだ。
 変化するボールを追いかけると、どうしても上体から突っ込む形になる。そうなると、腰の回転を生かしたスイングが出来ない。腕だけで振り回したバットはほとんどが空振りとなるか、当たったとしても、威力のない打球が宙を舞うだけである。
 いかにして、その軸を垂直に伸ばしたままスイングをするか…。その対策のひとつが、広いスタンスの採用であった。
(今は、ストレートに狙いを絞るけど…)
 打席の中で構えをとった桜子。最初は、“股が広がっている”という違和感もあったのだが、素振りやティーバッティングを繰り返すうちに、しっくりと来るようになった。両足でしっかりと地面を踏みしめ、下半身が根を張ったような安定を感じるのだ。
 構えが整うのを待っていたように、晶はゆっくりと振りかぶった。対峙する桜子も、グリップを引き絞り、脇を締めて、太股の内側に力を込める。
 スタンスが広くなったこと以外は、構えそのものはコンパクトだ。バットは真っ直ぐに立て、テイクバックも大きく取らない。踏み出しのステップも幅を小さく取るようにして、重心の移動距離を短くし、軸のズレを防ぐ。
「!」
 初球は、アウトコース低目へのストレート。わずかにベースから遠い気がして、桜子はそれを見送った。
「ボール!」
 案の定、それはストライクゾーンを外れていた。
 パワーヒッターであるとともに、桜子は選球眼も優れている。天性の資質に加えて、バレーボールで鍛えられた動体視力が、ボールの軌跡をはっきりと視界に映しているのだ。
 2球目。同じアウトコースへの、今度はチェンジアップ。そして、桜子の目には、ストライクゾーンを通る球筋が見えている。
「ストライク!」
 ストレートに狙いを絞っている桜子は、踏み込みはしたものの、初球と同じようにこれを見送った。
 これでカウントは、ワンストライク・ワンボールとなった。
(次かな? 大和くんの言ってた、えーっと……)
 アウトコースで勝負をするにしても、内角に対するボールは必ず交ぜてくるはずだ。内・外の出し入れは、配球の基本である。
(“クロス・ボンバー”っていうのが、来るかも)
 だから桜子は、インコースへの配球を特に意識して3球目を待った。…ちなみに、“クロス・ファイヤー”ですので、お間違いなく。
 3球目を投じるために、晶の足が高くあがる。
(!)
 その足で踏み込んだ位置が、これまでよりも内側の地点にあった。その瞬間、桜子は次の球が内側に来ることを確信した。
 鞭のようにしなる腕の先から、鋭い回転力を有した快速球が放り込まれる。大和の言ったとおり、角度のあるインコースへのストレートが、まるで自分の身体を貫く勢いで迫ってきた。
(これが、“クロス・ボンバー”なのね!)
 …いえ、“クロス・ファイヤー”です。
 ところで、動体視力のほかにも彼女は、打者として大きな武器を持っていた。それは、スピードボールに対する恐怖心が全くないことである。簡単に言うと、彼女は死球(デッドボール)を恐れていない。
 軟式球とはいえ、それが体に当たれば痛い思いもするし、実際に彼女は一度、顔面に死球を食らっている。
 しかし、その影響を感じさせないほど桜子は、胸元を抉るようなスピードボールに対して、しっかり踏み込んで迎え撃つ度胸を持ち続けていた。


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