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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-209

「草薙、バックアップ頼む!」
「はい!」
 瞬時に判断を下した岡崎が、背面でボールを追いかける。ややセンターよりに守備位置をとっていた浦の位置からでは、おそらく届かない。
 しかし、岡崎にとっても微妙な距離だ。ふわりと飛んでいるように見えて、打球には意外な勢いがある。
「くっ…」
 必死に伸ばした岡崎のグラブ。しかし無情にも、その先を掠めたボールは乾いたグラウンドの上でバウンドした。
「!」
 体勢を崩し、膝をついた岡崎に代わって、彼と並行するようにボールを追っていた大和がその打球を処理する。空いたサードの位置には、雄太がベースカバーに入っていたが、大和の意識はもう三塁にはなく、初めからそう決めていたように、セカンドベースについている吉川に向かってボールを投げ返した。
 三塁走者の亮は、ハーフウェイで打球の行方を見守っていた。だとすれば、ボールがバウンドした瞬間には既にホームベースを駆け抜けている。1点を奪われたのは確実であり、最も憂慮しなければならなかったのは、打者走者である晶を二塁まで進塁させないことだった。それが、大和の判断だった。
「あらら、危ない危ない」
 あわよくば二塁まで、と勢いをつけて一塁キャンバスを蹴っていた晶は、セカンドに素早く返球されたボールを確認するや、その足を止めて帰塁した。
「へぇ…」
 息の合った三遊間の連携と判断の早さに、舌を巻く。
「やるじゃないの」
 春先の練習試合で対戦したときも、二人には図抜けた実力とセンスの良さを感じたが、それは今でも変わらない。
「よっしゃ、よっしゃ! 晶ちゃん、ナイスバッティングや! 木戸も、ようやったで!」
 ベンチで喜色満面に騒ぐ龍介。
「ALL RIHGT! TAKE IT EASY!」
 失点したことを気に病まないよう、落ち着くようにマウンドへ声をかけるエレナ。
「低めには決まっていたが、コースが微妙に内側だったな」
「少し、力みすぎたぜ」
 吉川からボールを預かり、それを手渡すためにマウンドに寄ってきた岡崎の指摘を、雄太は苦笑しながら受け入れていた。
「曲がり具合は、申し分ない。それは大丈夫だ」
「おう。次は打たせていくから、バックは頼む」
「ああ」
 雄太は元来、三振を多く取るタイプの投手ではない。二種類のカーブを利用して、配球で打たせて取る型の投手だ。
(相手のピッチング、意識しすぎたよな……)
 三者三振を奪った晶の豪快な投球に負けん気がでて、無意識のうちに奪三振を意識したようで、それが力みに繋がって、コントロールを微妙に乱したのである。
 カウントで追い込んでから投げた決め球としてのドロップは、いずれも内側に入って痛打されてしまった。幸いだったのは、低めを突いていたので長打にならなかったことだ。
「だいじょうぶです! ひとつずつ、しっかりいきましょう!」
 桜子の闊達な声がマウンドに届く。その声に励まされながら、力みを取るようにひとつ深呼吸を挟んで、雄太は投球を再開した。打たせて取る自分のピッチングを思い出しながら…。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
「バッターアウト!!! チェンジ!」
ところが、4番と5番からは三振を奪えてしまった。
「うーん。こういうもんか」
 想定外の結果に、苦笑する雄太。打ち取るつもりで投じた決め球のドロップが、狙ったとおりのコースに決まって、それが結果的に相手から空振りを奪ったというのだから、可笑しなものである。
 ともかく、双葉大は相手の攻撃を1点で凌いだ。
「あ、あの…。ごめんね、雄太」
「ん? ああ、さっきのか」
 ベンチに戻った時、真っ先に雄太の所へ駆けつけたのは品子だった。自分の失策とボーンヘッドで二塁を陥れられ、失点に及ぶピンチを招いてしまったことを気にかけていたのだろう。


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