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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-208

「ストライク!!」
 幸運なことに、晶がボールと見切って見送ったものが、ストライクの判定になった。大和の目にはボールのようにも見えたが、審判の言葉で宣告されたのであれば、それは紛れもなくストライクなのである。
「ちょっと、外れてるんじゃない?」
「いいや。かすってる」
「むぅ。…監督が自分のかわいい奥さんだからってさ、甘くしてるんじゃないの?」
「そんなことはしねえよ。でもって、今のコースはストライクだからな。次も取るぞ」
「わかったわよ」
 不承不承という感じではあったが、判定が変わらないことを受け入れた晶は、ひとつ深い息をついてから、打席の中に戻った。
(どうするかな。一気に勝負するか、ひとつ間を置くか…)
 桜子の構えを注意深く見つめる大和。その視線の先で、落ち着く場所を探していたミットは、2球目と全く同じコースにその位置を定めた。“次も取る”と主審が明言した、微妙なスポットである。
(勝負するみたいだ)
 同じコースに同じ球種を続けることは、基本的にはありえない。おそらくここは、カーブで来るだろう。ボールと判定されて、仕切りなおしの勝負球が必要になった時を考えれば、カウントに余裕がある今は、まずスライド式のカーブで様子を見たほうがいいかもしれない。
 ウィニングショットは、同じ対戦の中で数多く使うものではない。球筋を早い段階で見極められてしまう恐れがあるからだ。
「………」
 雄太の首が縦に動くまで、少しの“間”があった。球種を巡る葛藤が、彼の中にはあったようである。それでも雄太は、桜子のリードに従った。
 ちら、と視線による牽制を投げかけた後、3球目が投じられた。
(ドロップ!)
 その指先から弾き出されたボールは、大きな弧を描いて、アウトローに構えた桜子のミットに沈んでゆく。ウィニングショットの、“ドロップ”である。
 勝負の仕掛けが早い気もしたが、どんどん攻めていく勢いのあるリードは、桜子らしいと思う。初めてバッテリーを組んだ試合でも、自分がスタミナ切れを起こして連打を浴びたとき、それでも強気にインコースを要求してきた度胸が、彼女にはある。
 ドロップは、少しばかり内側に寄っていた。制球力のある雄太とはいえ、寸分違わぬ同じコースに続けて投げ入れることは難しい。ボール半個分のズレは、必ず生じてくる。それでも、低いところには決まっている。
「!」
 2球目と同じコースに来たのだから、当然、晶のバットは始動した。ストレートに狙いを定め、その中で変化球を待っていたからなのか、その振り出しは少しばかり遅かった。
 ミートを強く意識したコンパクトなスイングで、ドロップの軌跡を追いかける晶。

 キン!

 と、軽く乾いた音が響いた。バットコントロールを意識したスイングで、ドロップを捉えたのである。
 フォロースルーの際、晶は左手をグリップから離していた。バックスイングを少なくした分、失ったスイングの力強さを、円運動の起こす慣性によって補うためだ。
 左手を離すことによって、自分の体を軸にした回転運動は、より強いベクトルをヘッドの位置に与えることが出来る。 ただし、ボールを意図する方向に運ぶことが出来ない分、打球の行方は自然の法則に従うことになる。
 外角に投じられたボールをやや遅い初動で振り抜き、あとは慣性に任せる。当然打球は、三遊間の方向に飛んだ。
「!」
 意外に勢いのある打球が、三遊間の頭上やや後方に浮き上がった。振り遅れながらも、バットの芯に捕らえられていたのだろう。
「こ、これはっ……」
 判断の難しい打球になった。サードの大和、ショートの岡崎、そして、レフトの浦を頂点として形作るトライアングルの中間部分に飛んできたからだ。


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