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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-210

「木戸さんの打球、凄いよな。トップスピン、かかってたんだろ?」
「え……。う、うん。バウンドした後で、グンと来た」
「さすが、“球聖”だよ。想像以上のスイングスピードだぜ」
 “木戸 亮”の名前は軟式球界でよく知られた存在であると触れたが、高校時代にその軟式野球で全国大会に出場したことのある雄太は、当然それを知っている。 ちなみに、“球聖”の二つ名は、残した記録の凄まじさもさることながら、野球に対する真摯な取り組みに対しての賞賛も含んで、彼に与えられたものだ。
「あの人の前に、ランナーを出さないようにしねえとな」
「そうね…」
「次は、ビシッと頼むぜ品子」
「え、ええ」
 過ぎてしまったことをぐちぐちと責めるのは無意味だ。ボーンヘッドがあったとはいえ、品子が懸命になっているのはよくわかっている。
 そして、そのことを本人が反省し、次にすべきことを理解しているのであれば、他に言うことはない。
(ありがとう、雄太。今度は、しっかりやるから…)
 雄太のためにもと、品子は雪辱を誓うのであった。


 二回表の攻撃は、4番打者である大和から始まる。
 晶との対戦成績は、2打数2安打2本塁打と、数字では圧倒しているが…。
(数字なんて、何の参考にもならないだろうな)
 と、彼は自分で見切りをつけていた。 それに、捕手が小学生だったあの時は、本気で投げていたはずもないのだ。
 初めて対戦する好投手として晶を認識して、大和は打席の中に入った。
(………)
 まるで、獲物に喰らいつこうとする雌豹のように、晶の瞳は鋭い光を放っている。そのプレッシャーを跳ね返すべく、大和の表情が厳しく引き締まったものになった。
 プレートを踏みしめ、大きく振りかぶってから、晶の足が高くあがった。細身の体でありながら、躍動感のある投球モーションである。それでいて、重心の移動はスムーズに行われ、しなやかで鋭い腕の振りが、球の出所を見極め難くしていた。

 ズバン!

「ストライク!」
 胸元を抉るようなストレートが決まる。大和がわずかに腰を引いてしまうほど、そのストレートには角度と勢いがあった。
(クロス・ファイヤー!)
 サウスポー特有の、右打者に向かってくるような鋭角の快速球。それは一般に“クロス・ファイヤー”と呼ばれるが、強打者の胸元を恐れなく貫く度胸と、相手を怯ませる球威が要求される。
(初球に、これか……。ふふ、面白いじゃないか)
 宣戦布告をこめた、本気の投球を見せてくれたのだ。知らず昂ぶる気持ちに煽られながら、大和はグリップを更に引き絞って2球目を待った。
「ストライク!!」
 2球目は、アウトコースの低めを突いてきた。インコースを抉られた残影が頭の中にあった大和は、無理に手を出さずそれを見送った。
「ボール!」
 3球目はアウトコースへのストレート。
「ボール!!」
 4球目も、全く同じように外への直球である。
 三つも連続して外角への投球を続けたのは、大和の中にその球筋を刻ませるためだろう。その布石が導く勝負球は、内角へのストレート…“クロス・ファイヤー”であるに違いない。
「………」
 勝負を仕掛けてくるなら、次の球だ。大和は、打つ意識を高めてそれを待つ。
 テイクバックを大きく取ってから、晶の足が高くあがった。そして、踏み出した爪先の位置が、三塁側に寄っていたのを大和は見逃さなかった。
(!)
 予測どおり、鋭く唸りをあげるストレートが内角を突いてきた。刹那、大和は、摺足のステップから内側に踏み込んで、向かってくる球と正対するようにスイングの始動をさせた。
「!?」
 しかし、スイングの途中で、直球が自分の体に随分と近いところへ迫っていることに気がつく。


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