投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 485 『STRIKE!!』 487 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-207

 シュン… スパンッ!

と、伸びのある送球が若狭のファーストミットを鋭く貫いた。
「アウト!」
 当然、バントを上手にこなした打者走者はアウト。それでも、余裕を持っているとは言いがたい微妙なタイミングであった。送りバントだからと、打球の処理を緩慢にしていれば、ファーストもセーフになっていたかもしれない。
(このチーム。あの時とは全然違うぞ)
 はっきり言って、強い。浮き足立つ双葉大の隙を突くように、一死三塁という好機を作り上げたのだから…。1年前の草野球大会で、桜子に誘われ、飛び入りで参加したチームとは、まるで別物である。
 考えてみれば、バントを決めた2番打者も初めて見る顔だ。上背こそは、170センチ前後と小柄に見えるが、打球をうまく殺した送りバントとその俊足を見れば、器用さと俊敏さを併せ持った好選手であることが伺える。
「航、ナイスバント!」
 サードキャンバスで、亮が手を叩きながら声をかけている。彼に、“航(わたる)”と呼ばれた選手は、小さく手を挙げてそれに応えていた。
 ヘルメットを外した時に見えたその素顔は、あどけなさを多分に残していて、まだ高校生のようにも見える。
「キミも、ナイスプレーだったね」
 不意に視線が合った。すると彼は、大和にも言葉を投げかけてきた。
「アイツの足で、あの打球だったから、俺はセーフになると思ったんだけどな…。いいダッシュだったよ」
「あ、ありがとうございます」
 打席の中で見せていた静けさからは想像もつかない、気さくな雰囲気である。
「それにしても、伸びのあるいい球をファーストに放ったもんだ。野手にしておくのは、ちょっともったいないな」
「は、はぁ……」
「あの球なら、俺は空振りしていたかもしれない」
「そんな。あのスイングで、それはないでしょう」
「どうかな? ふふふ」
 それにしても、わずかワンプレーにも関わらず、随分と細かい所まで見られていたものである。しかも褒められたのだから、悪い気はしない。
 しかし今は試合中である。緩みかけた気持ちと頬を引き締めて、大和はサードの守備位置に戻った。
(3番は、晶さんか)
 動きの全くなかった亮の構えとは違い、晶は小刻みに身体を揺らしている。あらゆる球種にタイミングを合せ、反応できるようにするためだろう。
 セットポジションに入ったマウンド上の雄太が、背中越しに顔を向けて三塁ベース上にいる亮の動きを牽制してきた。スクイズを警戒しているらしい。
 しかし、打席の中で見せる晶の打ち気を考えれば、その可能性はゼロに等しい。
「晶ちゃん、スクイズはさせんからな! がつんといてまえや!」
と、サインの出所になっているはずの龍介が、盛んにメガホンを叩いて声を出していたのも裏付けである。
(スクイズはない)
 確信をこめた会釈で雄太の視線に応えると、彼は納得したように頷いて、相手打者の方に向きを直してから投球モーションを始動させた。
「ストライク!」
 インコース低めの厳しい場所に、ストレートが決まった。晶はわずかにバットの持ち手をピクリとさせたが、スイングまでには至らずにそれを見送っていた。
(でも、球によっては振るつもりだったな)
 微動だにせず初球を見送った亮と違う点は、その軸足に体重を移動していたことである。初球から、打つ気は満々だったらしい。
 桜子が雄太に求めた2球目は、アウトコースのカーブ。構えているところは、かなり際どい位置である。晶は左打席に入っているので、大和がいる三塁側からは、桜子のミットの位置がよく見える。
(うん。悪くない)
 打者の打ち気を察した彼女は、ボールの範囲まで幅を広げたリードを展開している。一塁は空いているのだから、カウントを悪くしても、四球で歩かせる余裕はある。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 485 『STRIKE!!』 487 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前