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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-206

 グゥン…!

 大きく曲がり落ちていくカーブが、アウトコースへ落ちていく。外の高いボールゾーンから、低めのストライクゾーンの位置へと…。
 しかしそれは、わずかに内側に入ってきた。
「!」
 亮のバットは、初動の入りがとても遅かった。静かに溜められていた気が瞬間的に炸裂したように、そのヘッドが風を切り裂く音をたてる。
 バットのヘッドが先に流れないよう両脇をしっかりと固め、どっしりと構えた下半身を軸にして、腰が鋭く回転した。

 シュッ!

(うわっ! 音が、すごい!)
 歪みの一切ない綺麗なベクトルがバットの先まで伝わっている。ヘッドスピードの速さは、風を切る音になって大和のところに響いてきた。
「!」
 大和の背中を走った畏怖と緊張を弾く打撃音が響いた。曲がり落ちてきたボールはバットの芯で叩かれ、鋭い打球が一二塁間の頭上に飛んだ。
 当然、一塁手の若狭も、二塁手の吉川も、グラブで届く範囲ではない。そもそも、グラブを差し出す余裕もないまま、亮が放った打球は、右翼手である品子の前でワンバウンドしていた。
「きゃっ!」
 トップスピンのかかっていたその打球は、バウンドしたことによって更に加速度が増し、その勢いに怯んでしまった品子はグラブで受け損なって、大きく弾いてしまった。
「あっ……!」
 逸らしたボールを、品子は慌てて追いかける。それは、歩数にして二歩半ほどの隙であった。
「本間さん、二塁!」
「えっ?」
 カバーに来ていた栄村の切羽詰った声で、品子は想像もしていなかった事態を知る。なんと、打者走者の亮が、まるで初めから狙っていたようにセカンドキャンパスを陥れようと疾駆していたのである。
「しまっ……」
 ベースカバーについていた岡崎に送球するが、ステップも踏まない状態で投じた返球は、ツーバウンドの後、ようやく彼の構えるグラブに収まった。品子の地肩の弱さでは、それでも御の字である。
亮は、スライディングをすることもなくセカンドキャンバスに到達していた。
「ナイスバッティング!」
 湧き上がるのはドラフターズのベンチ。
「Mm……」
 控えメンバーがいない双葉大のベンチでは、エレナがひとり軽く息をついていた。その視線は、打球を弾いてしまった品子に注がれている。
 確かに、指導者の目から見れば、彼女のプレーは褒められるものではない。それは、ファンブルをしたことより、その後の処置を迅速にしなかったという点に尽きる。もう少し機敏にボールをさばいていれば、二塁まで陥れられることはなかったからだ。酷なようだが、これは明らかな失策である。
 記録としては、ワンヒットワンエラー。右翼手のもたつきを突いて、二塁まで陥れた亮の判断力は、さすがというべきである。
 これで、無死走者二塁となり、攻撃する側としては無限の選択肢がある絶好の状態となった。逆に、守る側としては、これを無失点で切り抜けるのは至難このうえない。
 初回でもあり、攻守それぞれ三度に限られている“作戦タイム”を取るのは避けたい。だとすればここは、バッテリーの呼吸で乗り切るしかないのである。
(バント。それしかない)
 セオリーで行けば、九割は送りバントである。それを示すように、相手の2番打者は、打席に入る前から、バントの構えをとっていた。

 コッ…

 これもまたセオリー通りに三塁側へと、打球は転がった。
(!)
 最初のバウンドで、かなり勢いを失っている打球を見た瞬間、大和はダッシュを強めていた。転がっているボールを直接素手で捕まえて、握りを確実にこなしてからファーストへ送球する。


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