『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-132
「………」
「………」
歓声をあげることさえ憚られるような、あまりにも見事なホームランである。次の打者である桜子は、立ち上がったまま呆然と、その打球が消えた方向を凝視していた。
「FANTASTIC!!」
エレナの歓喜で我に還った面々が、一斉に沸きあがる。それを受け止めつつ、大和はベースを一周し、ホームを踏んだ。
これで、4−0となった。猛攻である。
「あたしも、がんばるもんね!」
大和の華麗な一発に触発されたように、桜子がその背を大きく伸ばして、ぶんぶんとバットを振っていた。
『サクラは力持ちです。それに、元気がとってもよろしいですね』
長打力と好機を楽しめる心胆の強さ。まだ野球の経験が浅いとはいえ、クリーンアップを任せるには充分すぎるほどの要素を桜子は有している。まだまだ荒削りなところはあるが、それを補って余りあるほど打者としての魅力が彼女には存在していた。
立て続けに安打を打たれ、さらには本塁打まで浴びたマウンド上の投手は無残なまでに余裕を失っている。力のない腕の振りから放られたボールは、やはり、力のない無気力そのもののストレートであった。
ゴツン!
「ま、また行った!」
桜子の怪力によって豪快に打ち放たれたボールが、大和ほどではないにせよ高々と空に駆け上り、グラウンドのフェンスを越えたところで落着した。
「Mm! SPLENDID!!」
エレナの言う通り、“素晴らしい”本塁打である。
「おおぉぉぉぉ!!」
これ以上ないくらい湧き上がる双葉大学のベンチ。それを真横から浴びせられている関八州大学の野手陣は、ひとつのアウトも取れないまま5点を奪われたことで、既に戦意を喪失していた。
双葉大学の第1試合の結果は、リーグ関係者の肝を冷やした。
双葉大|530|611|000|16|
関八大|000|000|000| 0|
この結果を見れば、確かに誰もが背筋に冷たいものを感じて当然である。
昨季はブロック戦を制し、決勝トーナメントに楽々と進出した強豪の関八州大学を、まるで赤子の手を捻るかのように峻烈な数字で捩じ伏せた双葉大学。攻守に相手を圧倒し、特に投手の雄太はカーブの切れが冴え、散発2安打の無四球完封勝利を挙げた。
だがそれ以上に圧巻だったのは、4番の大和である。
初回の2点本塁打。2回の3点本塁打。4回の満塁本塁打。そして、6回のソロ本塁打。四打席連続のアーチでさえ凄まじい記録であるのに、なんと彼はそれぞれ、ソロ(1点)・ツーラン(2点)・スリーラン(3点)・グランドスラム(4点)の本塁打を放つという、“サイクルホームラン”を達成したのである。こんな記録は、プロでもあり得ない。
4本目の本塁打以降の打席は、完全に相手から敬遠された。塁上に走者が居らずとも、彼は当たり前のように勝負を避けられた。
無理もあるまい。この試合だけで大和は、実に10の打点を挙げたのだ。それも、全て本塁打で…。
『なぜ、これほどの選手が2部リーグに!?』
誰もがそう思ったはずである。数字だけ見れば大和の打撃は、神の領域に達している。
「みなさん、今日はNICE GAMEでした」
それはともかく、双葉大学は絶好の船出をしたことになる。現地で解散する間際のエレナは、監督としてはじめての勝ち星に喜色満面であった。