投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 390 『STRIKE!!』 392 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-112

「ありがとうございました!」
 互いに礼を交し合って、その日は終わった。
「みんな、お疲れ様。気をつけて帰るのよ。寄り道しちゃ、ダメだからね。女の子は、家が近い子がきちんと送ってあげるのよ」
「はーい!」
 城南エスペランスには、少年だけではなく少女もいた。……気がつかなかった。
「カントク、さよーなら!」
「さよーなら!」
「バイバイ!」
「はい、さようなら」
 練習が終われば、エスペランスの少年たちと晶は、まるで親子のように親密な空気にくるまれている。それだけ晶が、彼らに慕われているということなのだろう。いつのまにか用意されていた缶ジュースを、自分の手で一本ずつ少年たちに手渡しながら、家路に着く彼らを笑顔で見送っている晶の姿を見れば、それも当然だとは思う。
「THANKS」
「こっちこそ。とてもいい練習になったわ」
「こっちはいい暇つぶしになった」
 晶は眩い笑貌で、栄輔は少しはにかんだように、それぞれエレナの前に立っていた。
「なぁ、屋久杉……」
 その様子を遠巻きに見ていた雄太は、不意に若狭に話し掛けられ振り向く。すると、まるで言葉を待っているかのようにメンバーたちが揃って並んでいた。
「ど、どうしたんだよ」
「練習、これで終わっちまうのか?」
 日暮れは近づいているが、まだボールは見える。練習を終えるには早いと若狭は言いたいのだろう。
「おまえら……」
 岡崎や品子を除くと、定時がくればすぐに練習を終え家路についていた面々だったが、まるでそれが嘘のように雄太の言葉を待っている。
「な、なんか情けなくてよ……」
 そう言ったのは栄村だ。彼はこの日、1本のヒットも打てなかった。
 若狭と栄村は、高校野球の経験者だ。二人とも試合では補欠にも入れなかったそうだが、高校三年間を野球部で過ごしてきただけのことはあり、雄太としては本腰を入れて練習に取り組めば双葉大の中核になってくれるだろうと期待もしていた。
「ははっ……情けないのは、俺も同じだぜ」
 野球部への誘いには乗ってくれたが、なんとなく温いものを抱えながら活動をしていた彼らが、その気になっている。どうやら、純真無垢に白球を追いかけて、自分たちを苦しめた城南エスペランスの少年少女たちに刺激を受けているらしい。
 それは、雄太の熱気に打たれるようにして、大学に入って野球を始めた2年生の吉川と浦も同様だった。野球好きだったという二人はもともと練習に対して強い熱気を持って臨んでいたが、それがさらに燃え上がっているようである。
 そんな集まりの中に、エレナが戻ってきた。
「SORRY EVERYONE.今日はいきなり試合をさせて面目ありませんでした。Mm……? WHAT?」
 不意に浴びせられた熱気に、さしものエレナもたじろいだ様子を見せた。
「監督、もう少し練習してもいいですか?」
 だが、何か秘めるものを眼の中で輝かせている彼らを確認し、エレナは心が熱くなった。苫渕のいうように、とても好感の持てるチームである。
「モチロンですよ!」
「よっしゃ、みんな行くぜ!」
「応!」
 今までもまとまりがあったと思っていた野球部ではあったが、それ以上の結束力が生まれた気がする。冷静な中にも心を躍らせていた岡崎は、やはり監督の存在というものの大きさを痛感していた。
「いいチームだね」
 一方で、大和は久しぶりに触れることの出来た熱い雰囲気を愉しんでいる。甲子園で戦い続けた時の熱さと同じものが、ここにはあった。
「あたしたちも、負けられないね!」
 雰囲気に乗りやすい桜子は、俄かに活気づいた先輩たちに負けじと気合を高め、再び始まった練習の中でも突出した元気さを見せていた。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 390 『STRIKE!!』 392 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前