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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-113

「お疲れさん」
「おつかれ〜」
 日が完全に暮れても、練習は終わらなかった。さすがにこれ以上はオーバーワークになるとみたエレナは、その終了を告げる。
 充実した時間の余韻を引っ張るようにして、メンバーたちは家路に着いていった。その背中に、今まで感じることのなかった頼もしさが見えて、雄太は頬が緩んだ。
「監督、これからもよろしくお願いします」
「OK!」
 親指を立てて、力強いウィンクで応えるエレナ。考えてみれば、全てはこの人の思惑通りに進んだのかもしれない。だとするとその指導力は、並ではない。
「今日は疲れたでしょうから、皆さんも早く帰って休んでくださいね」
 ユニフォームがなかったので、スーツ姿のままだったエレナは、簡単に身支度を整えると、律儀にも彼女を待っていた夫の栄輔と共に帰っていった。

 ブン、ブン、ブン……

「まだやってるのか、あの二人」
「そうみたい」
 部室の外から聞こえる風切り音に雄太と品子は苦笑する。彼らは、端末の前にして今後の日程と、今日の試合から新しい打順をどうするか考えているところだった。
 そんな彼らが気にした音を生み出しているのは、桜子と大和である。桜子のお願いを大和が聞き入れる形で、二人はまだ練習を続けていた。
「もう少し、肩の力を抜けるかい?」
「う、うん」

 ブンッ!

「………」
 まだまだスイングは安定しないが、鋭さは素振りの回を追う毎に増している。
「今の、いい感じだったよ」
「そう! よし、それじゃ……」
 大和に褒められるたことが嬉しくなり、桜子は構えを取る。まだ素振りをしようというのだろうか。
「これぐらいに、しておいたほうがいいかな」
 それを大和は止めた。明らかにオーバーワークである。本当は、随分前から切り上げさせようと思ったのだが、必死になっている桜子の姿を見ていたのでどうしてもそれを切り出せなかった。
「で、でも……あっ」
 有無を言わせず、大和は桜子の手からバットを取る。
「!」
 グリップの部分を握った時、妙に生温い感触があった。
「蓬莱さん!」
「あ、な、なにっ」
 慌てたように大和は桜子の手を取ると、それを窓明かりの中で晒してみる。
「う、うわ……」
 手のひらの皮が破れ、ひどいところでは血が滲んでいた。素手で素振りをするうちに汗で皮が柔らかくなり、元々あったマメも含めてはがれてしまったのだろう。一朝一夕にできるようなマメの破れ方ではない。
「こんなになるまで……なんで、何も言わないんだ!」
「だ、だって……」
 今日の試合では、桜子は晶の緩急に翻弄され、ヒットを打つことが出来なかった。負の感情をあまり持たない穏やかな性格ではあるが、負けん気も強い彼女はそれが悔しくて、今日の試合でも凄まじい活躍をした大和にバッティングのコツを教えてもらっていたのだ。
 毎日欠かさず素振りはしていたが、やはり誰かの指導を受けながらのそれとは効果も違う。教えてもらった感覚を今日のうちに身につけようと、素振りを繰り返していたのだが……。
「わぁ……」
 自分でも確認してみた手のひらは、ひどいことになっていた。途中からじんじんするような熱いものを感じてはいたが、まさかこれほどになっているとは。
「早く、手当てしよう」
「う、うん」
 大和に手を引かれるようにして、部室に入る。
「なんだ? どうした?」
「どうしたの?」
 端末の前で顔を寄せ合っていた雄太と品子が、珍しくも血相を変えて入ってきた大和の様子を訝しげに見た。ちなみに岡崎は、少し前に帰宅している。


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