Cross Destiny
〜神竜の牙〜B-13
「たかが餌を付けた針糸を垂らしてるだけなのになぜこんなに差が!?」
「ちっちっち
餌の大きさ、スポットを選ぶ目、忍耐力。
単純に見えて奥が深いんだよアルス君」
アルスを見下すような顔をするフォルツ。
「くっムカつく」
それを見て意地になるアルスだったが中々当たりが来ない。
その時
「あ、来ました」
ルナの竿に魚が掛かった。
「ルナ迅速かつ丁寧に竿を引くんだ!」
ルナはフォルツの言う通り(というより普通に)竿を引いた。
すると見事に魚を釣り上げた。
「や、やりました!」
生まれて初めて魚を釣り上げたルナは喜びの声を上げた。
「さっすがルナ、どっかの誰かさんとは才能が違うぜ、才能が」
「うるさい!」
「でも前にも言ったけどこうしてると昔を思い出すな。」
フォルツは再び感傷に浸った。
「ああそうだな。」
アルスも同じように感傷に浸る。
「あん時は良い暮らししてた訳じゃないけどさ、今とは違って目指すもののためにガムシャラだった。
だから何となく楽しかったなって思うんだ。」
アルスもフォルツも思いは同じだった。この戦争の中で苦しみを抱いていた。
自分と同じ人間を殺す戦争に、その果てにあるものが見えない戦争に。
「・・・・そうだな、だがこの戦争が終わればきっと、あの時の様にまた。」
それから時間は流れ昼。
フォルツは十三匹。
ルナは五匹。
アルスは二匹の魚を釣り上げていた。
これからそれを焼いて食べることになったが、ルナが食べる分以外は逃がして欲しいと言ったので六匹を残して逃がした。
「あ、そうだ。薪を集めなきゃな、アルスは魚のはらわたを取っといてくれよ、俺は薪集めてくるからさ。」
そう言うとフォルツは川辺から見える近くの森に入って行った。
魚を釣り上げた時はアルスは捌き係、フォルツは薪集めと焼き係と決まっていたからだ。
そしてアルスとルナはその場に残る。
アルスが魚のワタを取るのをジーッと見つめているルナ。
「そんなに珍しいか?」
「ええ、初めて見ました。ちょっと気持ち悪いけど」
「だろうな。」
一方森で薪を拾っているフォルツはそこで驚愕していた。
「てめえは!!」
フォルツはその森の中で自分に微笑む一人の少女に叫ぶ。
「久しぶりね」
そう黄泉羽の一人アシェルだった。
「てめえ!!」
フォルツは杖を構える。
「待って、私はあなたと戦うつもりは無いわ」
戦意を示さないアシェルにフォルツは戸惑いながら杖を向け続ける。
「同じ魔導士ということもあってか私はあなたのお目付け役として選ばれたみたい。」
「なんだと?」
「そして今回はあなたに真実を伝えに来たの。あなたが一人になる機会をずっと伺っていた。」
「真実だと?どんな真実を伝えられようが俺はホーリーに手を貸すつもりは無い!!」
「・・・・・」
「アルス?」
魚を捌きながら考えごとをするアルスをルナは心配する。
「なんだ?」
アルスはそれに気付きハッとした。