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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-66

「何よ、何が見切ったっていうのよ!!」
「投げればわかるよ、近藤晶」
「こ、の……」
「晶!!」
 亮にしては珍しく、激しい声だ。晶はその声に我に帰る。
「さあきたまえ! 3点のリードは、いま、邯鄲の夢に散ることを教えてやろう!!」
そう高らかにバットを掲げた後、地味に構える管弦楽であった。
(晶、気にするな。思い切り投げればいいんだ)
 亮は、ミットを真ん中から動かさない。本当ならここは内角低めに持っていきたいところだが、この状況で微妙なコントロールの要求は、晶への負荷になる。
 晶はセットポジションから、柔らかいモーションで始動した。そして、上半身の身体のしなりを、その回転軸を維持したまま左腕に持っていく。
 指先から、勢いのある白球が弾け飛んだ。指のかかりも、腕の振りも申し分ない。
「!」
 だが、コースは真ん中高めだった。球に威力がなければ、長打を食う確率の高い非常に危険なところだ。
「ははははは!!」
 哄笑と共に、管弦楽のバットが動いた。その鋭い腰の回転は、構えの中でバネが利いている証。

 ご!

 と、何かを叩き潰す嫌な音が、亮の耳に響いた。





 試合は早くも9回表が終了した。得点は4対3。櫻陽大学が1点をリードしている。得点の経過は、城二大が初回に3点を、櫻陽大が4回に3点、7回に1点を入れていた。
 ちなみに、櫻陽大の打点は、全て4番の管弦楽幸次郎がたたき出したもの。特に、4回に放ったスリーランホームランは圧巻で、なんと場外まで白球をかっとばしたのだ。
「……悔しい」
 7回の1点は、一・三塁に走者を置いた場面で、二塁打を打たれた。追い込んで、上手い具合にコースの散ったレベル2の直球を、それでもうまく運ばれたのだ。エレナの眼を見張るほどの強肩が2点目を防いでくれたが、勝ち越しを許してしまった。
 晶はこの試合、管弦楽ひとりにやられた格好となっている。
「まだ終わっていない、晶、うつむいてちゃいけないぞ」
 亮が、うなだれている晶の隣に座りその肩に手をおいた。
「わかってる」
 晶は顔をあげた。この回は、自分にだって打席が廻るのだ。
「ストライク! バッターアウト!!」
 先頭打者の新村が三振で倒れた。相手投手の今井はシュートとドロップを駆使し、初回以降を無失点に抑えている。先制した3点を追いつかれ、打ち気に逸るナインをあざ笑うような、緩急をつけた津幡のリードに城二大は嵌っていた。
 あのドロップはやっかいである。なにしろあまりお目にかからない球筋を通る変化球だけに、慣れることさえできない。まともなあたりを打ったのは、亮とエレナだけだ。それも後続が断たれ、得点には至らなかった。
 晶はウェイティングサークルに入る。
「アウト!」
 その目の前で、長谷川はセカンドフライに倒れた。これで二死。追い込まれた形になった。
「よし」
 晶がバットに滑り止めを塗りこめて、大きく息をついてから打席に向かう。今日の試合、彼女は塁に出ていない。やはり、膝元に沈んでくるようなドロップに手を焼いていた。
「晶、つないでくれよ!」
「栄輔……」
 思いがけない長見の頼もしい言葉に、晶はちょっとだけ目を丸くし、そして軽く笑む。まったく彼の変貌ぶりは想像もできないことだった。


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