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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-65

「――――っ!!」
 亮も晶も、これは抜けると思った。典型的なヒットエンドラン。ランナーが一番だと考えると、1点を覚悟しなければならない。
「?」
 しかし、走者の津幡が二塁を回ったところで急に立ち止まり、なんと一塁へ向かって戻り始めたではないか。
 よく見ると、二塁の審判が拳を高々と宙に上げている。それは、アウトを告げるもの。
「捕ったのか!」
 外野に目を戻すと、長見が倒れこんでいた。そのすぐ傍で、エレナがボールを投げ返している。ボールは内野に戻ってきたが、既に津幡は一塁へ戻っていたので、取れたアウトはひとつだけだ。
「エイスケ、大丈夫ですか!?」
 エレナはいまだに仰向けのまま起き上がらない長見に、慌てて問いかける。
「あー。カッコわりいな。……こけちまった」
 実は、かなり余裕を持ってボールを捕球できたのだ。しかし、ボールを早く追いかけるため全力で背走していたが故に、グラブを伸ばしてそれを掴み取ったのはよかったのだが、その余勢を殺しきれず、足がもつれてそのまま腹から滑ってしまったのだ。
 こぼさないように、ボールは必死で掴んでいた。しかし、送球はできそうになかったので、エレナにボールを渡すだけが、精一杯だった。
 むくりと起きて、ぱむぱむと砂埃を払う。外野は芝が敷かれているといえ、踏みしめられたところが多くあり、一部は地面が剥き出しになっているのだ。
「ほっ」
 これは晶の安堵。正直、今の当たりはやられたと思った。センターの長見に、軽く手を上げて謝意を伝える。彼に野球で助けられたのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。
「甘いのが、続いたな」
「ゴメン」
 マウンドに寄ってきた亮に指摘をされたが、そのことは自覚している。ひとつ、呼吸を整えて、次の打者に対峙した。
「ボール、フォアボール!」
 しかし、三番・二ノ宮には追い込んでおきながら四球を選ばれた。よりコースを厳密に投げわけた結果であり、亮としては晶を責めることなどできない。
 これで一死・一・二塁。この試合、得点圏に走者を置いたのは初めてだ。
「ははははは! やはり華のある男には、華のある場面が廻ってくるのだよ!」
 ウェイティングサークルで哄笑するのは管弦楽。大きくこれ見よがしに胸を張り、打席に向かう。そして、最初の打席と同様にバックスクリーンをバットで指し示してから、構えを取った。
(このバッターには、もう、これしかないな)
 亮はレベル2を要求する。できるかぎりコースを散らすようにもサインで伝える。ただ、構えを真ん中から外さないのは、晶に余計な考えをさせないためだ。
(うん)
 晶にできるのは、亮を信じて、今の自分ができる最高の球を投げること。

 ぶん! ばし!!

「ストライク!」
 やや外角によったレベル2の速球が、管弦楽から空振りを奪った。
「いいぞ、晶!」
「ふっふーん」
 管弦楽が、くつくつと笑い始めた。亮は、さすがに気色ばんだ視線を送る。しかしすぐに冷静さを取り戻し、何事もなかったかのように持ち場に戻る。
 続く2球目もレベル2の速球。インコースのボール球だったが、管弦楽はこれを振ってくれた。
「くっくっくっ」
 追い込まれながらも、またしても不敵に笑う管弦楽。
「ははーはははは! 見切ったり、近藤晶!!」
「な……」
 さすがに晶が、噛みついた。


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