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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-63

「5番打者も、ですね」
「おお、あの舶来のお嬢ちゃんな。……薫も、見るところは見とるのう。うちの死んだばあさんもなかなかぐらまーじゃったが、それに匹敵するケツのでかさじゃ」
 ちょっとだけ鼻の下を伸ばす老将・日内。老いたりとはいえ、彼もまだまだ熱き男である。
 二ノ宮が、ひとつ咳払いをする。
「おっと、いかん脱線するところじゃった」
「………」
 “するところ”ではなくしっかりと“していた”のだが。それは、さておき。
「3点が相手に対するハンデじゃないと言うたが、君らにとっちゃあ、ビハインドでもないことは言わんでもわかっとるわな?」
 応、とベンチがそろって返事をする。
「諸君らがやれることを懸命にやれば、それでええ」
 日内の訓示は、それで終わった。
「よし、しっかりいくぞ!」
 最後に二ノ宮が、話を締めくくる。それを受けて、思いがけず3点を失いわずかに浮き足立った間のあるベンチの雰囲気が締まったものになった。
 これが、日内と二ノ宮が持っている統率力の凄みである。



「相手は4番だ」
 マウンドには晶と亮のバッテリー。3点を先制し、絶好の形でスタートをきった試合だが、櫻陽大の実力を考えればまだまだ油断はできない。
「とにかく、一人ずつを慎重に相手していかなきゃね」
「ああ。頼むぞ」
 心配はしていなかったが、晶に心の緩みなどはなかった。やはり、勝負の趨勢をいくつも味わってきただけのことはある。
 亮は、そんなエースを心強く思いながら自分の持ち場に戻ろうとした。
「ははははははは!!!」
「な、なんだ?」
 そんな亮を待っていたのは、ウェイティングサークルにいた相手打者の哄笑だった。球場内に轟くその声量に、呆然とする城二大の面々。
「僕が、櫻陽大のスーパールーキー天才4番打者! 管弦楽幸次郎その人だ!!」
 聞きもしないのに、わざわざ声高に自己紹介までしている。ルーキーということは、今年大学に入ったのだろう。
 バットのヘッドをす、とバックスクリーンに向けた。腰に手をおいて、なんというか、明日を夢見て日輪をさす自○隊勧誘のポスターのように、ポーズを決めている。
「3点はハンデだよ! 僕がこれから反撃の狼煙を、高々と蒼天にあげてみせよう!」
 恍惚とのたまい続ける管弦楽幸次郎。彼は、日内の言葉をきいていたのだろうか。ちなみに、今日はどちらかというと曇天の空模様である。
「あの、きみ。早く打席に入りなさい」
 挙句の果てに、審判にまで注意を受けていた。
「おお、すまない。紳士たるもの、ジャッジメンには敬意を払わねば」
 それでも悠々とした態度で右打席に入る。そして、再びバックスクリーンに向けてバットを高々と掲げた。
(なに、こいつ)
 晶は少し、カチリときた。そのポーズは、紛れもなく予告本塁打を表すものだったからだ。
「さあ、きたまえ!!」
 管弦楽は構えるときもやかましい。どうやらその一挙一動に、わざわざ台詞をつけたがる困った性格らしい。
(口だけじゃない。バネが、しっかりと利いている…)
 亮は、アウトコースに構える。相手の様子をうかがうには、そのコースは絶好の場所だ。
 晶もそれを予測していたから、ひとつ頷いたあと、大きく振りかぶり、今まで以上に気合を乗せたストレートを放り込んでやった。



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