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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-252

 試合は、いよいよ最終回の攻防を迎えた。隼リーグに延長戦はない。例外なく、完全に9回で試合は終わる。
 得点は、3−2。城南第二大学が、昨季の優勝チームである櫻陽大学を1点リードしている。昨季最下位だったチームが、この試合に勝利すれば優勝するところまできたというのは、まさに奇跡といえるだろう。最下位チームが翌年優勝したという前例も、ないのだから。
「晶」
 9回表の城二大の攻撃は、三者凡退に終わった。そして、泣いても笑っても今季のリーグ戦の中では最後になるマウンドの上に、晶と亮は立っていた。
「あたし、ドキドキしてる」
 晶が、左手で胸を抑えている。しかし、その顔は何かに満たされたような充足感がある。
「緊張とか、そんなんじゃないんだけど」
 動機が収まらないという。
「興奮かな? エッチのときによく似てる」
「ぶっ」
 亮は、吹いてしまった。優勝に向けたラストイニングでも、晶には必要以上に張り詰めたものがないことが、これでわかった。緩みは何より禁物ではあるが、しかし、気負いが過ぎて余裕がなくなれば簡単に足元をすくわれてしまうだろう。
 今の晶には、雄大さを感じた。それは、心身ともに精気に満ちているからだ。
「1番からだ」
 櫻陽大学の最後のイニングは、1番の津幡からという、相手にとってはまたとない打順で巡ってくる。最後の難関は、本当の意味で壁が高く厚い。
「うん。しっかり、やろうね!」
 パン、と背中をはたかれた。逆に気合を入れられる格好になった亮は、苦笑しながら自分のポジションに戻った。
「プレイ!」
 審判のコールに、グラウンド内に緊張が走った。それに向き合っている亮は、よくわかる。晶以外の野手陣は、明らかに平常でない固さが見て取れた。
(………)
 無理もない、と亮は思う。なにしろ、このイニングさえ0に抑えれば、自分たちは優勝することができるし、そればかりか、東西決定戦の舞台となる“甲子園”への切符を手にすることもできる。
 球児ならば、誰もが憧れる夢の聖地。あと一歩で、その扉を開くことができるのだから、皆に気負うなというのは無理な話だろう。
(晶、頼むぞ)
 そんな中でも、晶の様子は変わりなかった。むしろ、その緊張感を楽しんでいる趣さえある。亮はそれが頼もしくあり、好ましくあった。
 1番の津幡が、打席に入っている。普段の軽妙さは鳴りを潜め、これまで以上のプレッシャーを全身から放ち、勝負に挑んできている。
 亮は、その打ち気に真っ向から対峙するように、内角を攻めるレベル1.5を要求した。
「ストライク!」
 晶の渾身のストレートに、津幡のスイングは空振りをした。振り遅れている。
(………)
 その球威は9回を迎えてなお、衰えを知らない。それどころか、回を重ねる毎に増加していく勢いがある。
「ファウル!!」
 二球目、内角高めのボール球に津幡は手を出していた。まるで向かってくるように貫いてくるその球威に、手が出てしまったのだ。完全に彼は、呑まれてしまっている。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 内角の上下に速い球を見せておいて、外角に緩いレベル0を投じた。津幡はその緩急についていくことができず、スイングを崩して三振に倒れた。どうやら気負いは、櫻陽大の方が強いらしい。
 2番の風間もまた、その気負いを緩めることができなかったようだ。内角のボール球に手を出して、呆気なくもキャッチャーフライに仕留めることができた。
 相当の困難を覚悟して臨んだ最終回も、あっという間に二死。強豪・櫻陽大を追い詰めた。だが、あまりにもあっさりとし過ぎたために、亮は逆に言い知れぬ不安を覚えてしまう。
「………」
 二ノ宮が、無言で打席に入ってきた。今日の試合では、相手にとって先制打となった2点タイムリーを含めて、ヒットを2本打たれている。しかし一方で、三振も二つ奪っている。
 油断はならないが、臆病になってもいけない。亮は、内角低めにレベル2を要求した。
「ストライク!」
 インコースの厳しいところを貫く直球に、しかし、二ノ宮の腰は怯えた様子もなく鋭く回転し、空振りに終わったとはいえ、背筋を寒からしめる程のスイングを見せた。
「………」
 慕い憧れた先輩の表情は、追い込まれている状況からか、いつになく厳しいものに映る。だが、その構えには1・2番のように、必要以上の気負いを感じられない。
(さすが)
 常勝のチームを率い、その強さを纏め上げてきた彼だ。その集中力はやはり、瞠目すべきものがある。
 二球目もインコースだ。今の晶の球威ならば、コントロールを誤りさえしなければ、痛打はされないだろう。今度はその高低を変えて、高めの胸元を抉るような場所を攻めた。



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