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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-253

 ギン!

「ファウル!」
 詰まった打球が、バックネットに跳ねる。
 取りあえずはこれでツーナッシングと二ノ宮を追い込んだ。あと一球、ストライクを奪えば、城二大は勝利する。
 しかし、勝負を焦らない。三球目は、外角ギリギリの位置へ、レベル1を要求した。
(よし!)
 晶はその位置に、見事なまでにコントロールした速球を放ってくれた。今の彼女は、レベル1の速球ならば、針の穴を通すほどのコントロールを有している。
(面白い球だ!)
 見逃しても、際どいところだ。また、打ち放ったとしても絶妙な位置に投げられたそれは、芯を喰らいにくいはず。
「!」
 そんな亮の意識を遮るように、彼がミットを構えていたその位置になにかが影を作った。それは、二ノ宮のバットだ。だが、振りにかかった勢いのある印影ではない。
(バ、バント!?)
 なんと二ノ宮は、そのバットを水平にして速球に対峙したのだ。二死で、しかもツーストライク。ファウルになるだけで…たったそれだけで、試合に敗れ去るというのに、なんという大胆さであろうか。

 こっ……

 そんな状況をものともしないで、差し出された二ノ宮のバットに衝突した軟球は、そのまま三塁ライン際を転がった。ほんとうに、ライン際の微妙な位置を、転々としている。
 張り詰めている状態で不測の事態が起これば、人は謀られたように空白の時間を脳内に生み出してしまう。
 それは、冷静な亮でも例外ではない。バントをされた瞬間、彼はエレナへの指示が遅れてしまった。
 一塁ベースへと駆け出していた二ノ宮は、既に間近なところにいる。このままボールを捕まえて送球しても、アウトに仕留められるかどうかは微妙なところだ。
「……ッ」
 やむを得ずボールを静観することにした亮の思惑を裏切る形で、軟球はラインの内側で転がりを止めた。
「フェア!」
 見事なまでの、バントヒット。9回裏で、しかも1点負けている状況で、さらにツーストライクという、バントを成功させるには“九死に一生”という条件下なのに、それを簡単に決めた二ノ宮。
(相変わらずだよ、あの人は……)
 豪胆なことこのうえない。
(そういえば、似たようなこともあった)
 高校時代の話である。
 甲子園を目指して戦っていた県予選大会の決勝戦…延長に突入し、1点を追いかけながら二死まで追い詰められた状況の中、二塁打を放った選手の代走に出た二ノ宮(このときは既に右目を失明していたが、走塁には問題がなかった)は、なんとその初球に盗塁を決め、さらに相手の暴投を誘って同点に追いつくという業を演じた。
 一塁から二塁への盗塁も容易なものではない。ましてや、二塁から三塁への盗塁など、捕手と三塁ベースとの距離を考えれば、その難易度は乗倍のものとなって走者にプレッシャーを与える。
 アウトになればその時点で敗北し、あと一歩に迫った甲子園への道を絶たれるという状況下、初球にあっさりとそれを敢行した二ノ宮。
 呆気なくも同点にされた相手投手の動揺を突くように、実はその時打席の中にいた亮の劇的サヨナラアーチが飛び出して、彼らは甲子園への切符を掴み取った。
 亮は甲子園初出場を決めた殊勲者として、メディア各種の中では主役となったが、彼を含めたチームメイトは、主将の二ノ宮こそが本当の勝利の牽引者だと確信していた。しかしそれを億尾にも出さず、皆の健闘を、涙を流して讃える彼の姿に、一層の尊敬を募らせたのは亮ばかりではあるまい。


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