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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-250

「逃げるのか?」
「そ、それは…」
「いや、責めているわけではない。それも、勝負の一手だからな」
「管弦楽の、言う通りだよ」
「津幡さん」
「勝負するにしろ、それを避けるにしろ、半端はいけないからね」
 敬遠でも構わないよ、と津幡は言う。
「………」
 京子はしばらく無言のまま、自分の指先を見つめていた。葛藤が、心の中を駆け巡る。
 この試合は、負けるわけにはいかない。優勝をかけた大一番だ。野球部に入って間もない自分が、それでも預けられている勝負のマウンドで、考えなければならないことはなんであろうか。
 それは、間違いなくチームの勝利だ。だとすれば、ここで取るべきは敬遠が上策だろう。
 京子はもう一度、管弦楽の方を見た。彼は相変わらず尊大な様子ではあったが、それでも、自分を見守ってくれているような大きな力を感じた。
 今度はベンチを見た。監督の日内と、マネージャーの千里には動じた様子もなく、控えの先輩たちは声高に自分を激励してくれている。
「勝負、してもいいですか?」
 京子の眼差しから、恐怖が消えていた。そうなると持ち前の負けん気が顔を出してくる。
「そうこなくてはな」
「そうだね」
 管弦楽と津幡が同時にその言葉を支持した。
 確かに勝利を貪欲に奪おうとするならば、敬遠は好もしいことかもしれないが、それは戦いの格を貶めることにもなりかねない。
「全力で守る」
「幸次郎……」
 塁審からの督促を受けて、マウンドから離れにかかった管弦楽の置き台詞に、京子は心を熱くした。
「プレイ!」
 間を空けた勝負が再び幕を開く。中座させられる形となっても、亮の集中力は途切れていない。
「………」
 京子の足があがる。投じられた三球目は、インコースを貫いてきた。
「!」
 亮は振りにかかる。鋭い腰の回転を殺すことなくバットに伝え、そのストレートを強く叩く。

 ギンッ……

 しかし、思ったよりも鈍い手応えがグリップに生まれると、バットから放たれた打球は力なく三塁線を転がっていた。
「ファウル!」
 救いだったのは、それがラインの外側だったことだ。凡退は、免れた。
(………)
 気持ちが乗った、威力のあるストレートだと思った。
「ツーストライク! ツーボール!」
 しかし、追い込まれてなお、亮の気合は萎む様子を見せない。それどころか、ますます張り詰めていく神経が、心の中にある境地を生み出していく。
 それは、“無”の世界だ。相手のこれまでの配球や、次の球に対する読みなど、あらゆる思考が亮の中から消え去っていた。目に見える光景が、静かでありながらはっきりとした輪郭を持って亮の視界に入ってくる。
 勝負を賭けた四球目。投球モーションを始めた京子の動きが、亮の中では完全なスローモーションとなっていた。振られようとする腕の先にある、ボールの握り方がはっきりとわかるほど……。
 放たれた軟式ボール。瞬間、亮はバットを繰り出していた。
「! ! !」
 インコースの高目から、一気に膝元へと落ちていくフォークボール。しかし亮のバットは、その鋭い落差をものともせずに、しっかりとボールについていく。強靭な下半身と、研ぎ澄まされた野生に近い集中力のなせる業だ。
 “来た球を打つ” 打者にとっては究極の領域に、今の彼は立っていた。



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