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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-249

「!」
 晶が、ベースを駆け抜けるときに起こした風を切る音と、風間のグラブにボールが貫かれた音が、同時に交差した。
 100m走のゴール間際でよくやるような前傾姿勢でベースを踏みしめた晶は、その勢いのまま数メートルを行き過ぎた後、すぐに振り返って審判の判定を見た。
「セーフ!」
 その両手は、勢い良く水平に掲げられていた。
「好!」
 晶は両手を軽く叩くと嬉々とした表情で、ウェイティングサークルに仁王立ちとなっている次打者の亮に視線を送った。
 待っていたように、二人の視線が交錯する。亮は少しだけ頬を緩めると、しかし、すぐに精悍な顔つきとなり、ヘルメットを深めに被りなおして打席に向かった。
「木戸!」
「頼んだぞ、木戸!!」
 直樹と、長見の声が被る。
「いげぇ! けっぱれ!!」
「おみゃあに、任しただぎゃ!!」
 興奮のあまり、地元の言葉がもろに出ている上島と長谷川。
「■◎▲×○!!」
「αθνβω!!」
 興奮が過ぎて、発した言葉が体を成していない赤木と原田。
「………」
「………」
 興奮を超えて、発する言葉もなく拳を振り回す新村と斉木。
「キドさん! FIGHT!!」
「一発だぜ!! ……いてて」
 CMで有名な謳い文句は、期せずしてエレナと長見の掛け合いになった結果のものだ。
 城二大のベンチは、その盛り上がりが最高潮に達している。そんな狂気にも似た興奮を背に受けながら、亮は、どんどんと高まっていく集中力を自分でも感じていた。
「………」
 身体中にある神経が敏感になり、空気のざわめきが全ての器官から伝わってくる。相手投手の息づかいがまるで、手にとるようにわかる。
 そうして、亮の集中力は極限まで高まった状態になっていた。
「ストライク!」
 初球のストレートを、微動だにせず見送る。しかし亮のビジョンには、ゆっくりと絵にでも描かれていく様子を一から見ているときのように、その球筋がはっきりと映し出されていた。
 二球目。鋭くしなる、京子の右腕。亮はその動きさえも、スローモーションのように見えている。
「?」
 指先に収まっている軟式ボールの握りさえ、今の亮には良く見えた。
「ボール!」
 ブレーキのかかった直球が、ストライクゾーンを外れて津幡のミットを貫いた。亮はやはり、なんら打ち気を見せることもなくこれを静観する。
「………」
 彼には、見えていたのだ。これが途中で落ちるフォークであることが。
(コ、コイツ……)
 マウンド上では、京子が背筋を凍らせている。最初の打席に三振を奪った時とは別人のような、打席での威圧感。野生の獣に狙いを定められているような、身も竦むほどの恐怖がじりじりと覆い被さってくる。
「ボール!!」
 アウトコースに投じた球は、明らかにその威圧に負けた形の威力の乏しい直球であった。
「タイム!」
 慌てたように津幡が審判にそう告げると、早足でマウンドに向かう。だが、彼よりも先に、京子のところへ足を運んだのは管弦楽であった。


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