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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-231

 2回裏、迎える先頭打者は、櫻楊大学の主砲・管弦楽幸次郎である。
「ははーはははははは!!!」
 もう慣れたものである。誰が、というと、審判が、である。
 とにかく黙って打席に入らない櫻楊大学の4番打者。そして、なにかともったいぶったような仕種を繰り返し、ようやくリズムを試合にあわせる。
「待っていたよ。この時を」
 キザな台詞も忘れない。もっとも、本人は普通に喋っているつもりであるのだが。
「………」
 マウンド上の晶は、挑発とも取れる管弦楽の言動を気にしないようにしながら、ロージンバックで丹念に手のすべりを拭う。言動や仕種は確かにふざけたもの(傍から見れば)に取れるが、彼の実力は身を持って痛感させられている。
 3安打1本塁打4打点。管弦楽と晶の対戦成績だ。3−4で敗れた初戦の数字を見れば、晶は管弦楽ひとりに打ち込まれたことになる。
 総合的な数字も、彼の打撃力を如実に表している。打率と打点は、亮に次ぐ数字を残し、本塁打はエレナと並んでいる。高校時代の実績は無きに等しく、今年進学してきたばかりの選手とは思えないほどの打撃力と勝負強さを発揮して、隼リーグの中では早くもスターのような存在になっていた。
 これが硬式野球の話だったならば、プロ球団のスカウトは彼を放っておかないだろう。
 正直な話、彼の球歴を調べにかかったスカウトもいる。誰あろう、いま、スタンドで観戦している壬生である。
 軟式野球出身のプロ野球選手は少なくない。加えて、かつて瀬戸内カブスに在籍し100勝100セーブ(先発としても、抑えとしても活躍したという証。実在のプロ野球でも、数人しか達成していない偉業)という記録を打ち立てた大埜という左腕投手を、軟式球界から見出した実績を壬生は持っている。
 彼にとっては野球に携わっている全ての選手が、スカウトの対象なのだ。それこそ、甲子園であろうと神宮であろうと、河川敷の草野球の話であろうと関係はない。
 そんな壬生の視線を知らず、晶と管弦楽の勝負は幕を開いた。
「さあ、きたまえ!!」
 オーソドックスな構えは変わらない。しかし、腰の辺りにどっしりとした安定感がある。さまざまな球種・コースに対応するための小刻みな動きはない。彼は自分の間合いに球を引き入れて、それを叩くタイプの打者である。
(晶)
 亮は、インコースの低めに構えた。晶はそれを確認すると、きり、と引き締まった顔つきそのままに、プレートを踏みしめて大きく振りかぶった。
 柔らかいモーションから、左腕がしなる。そのしなりが強く振られたとき、指先から白い閃光が走った。
「!」
 管弦楽のグリップが、わずかに動く。しかし、
「ストライク!」
 彼は見送った。ベースの角を際どく抉ったストレートに、審判の手が高く上がる。
「ふふふ」
 そして忘れない不敵な笑み。何が起こってもかわらない彼のペースに、間違っても引き込まれてはいけない。
 二球目。今度はアウトコースに。
「ボール!」
 半個分外したレベル1.5のストレートは、いとも簡単に見送られた。相変わらず、選球眼もいい。
(やっぱり、ボールは見えているんだな)
 お調子者だからといって、闇雲に振ってくるということはない。勝負の中にいる彼の集中力には、さしもの亮も背中に冷たいものを感じるのだ。
 内と外に揺さぶりをかけながら、相手のリズムを崩すというのはリードの鉄則ではあるが、管弦楽のように自らボールを迎え撃ってくるような打者には、効果も薄くなる。正直な話、彼の狙っているコースが何処にあるのか、亮は把握しきれない。
「!」
 キン! と小気味のいい音とともに、打球が空高く上がった。インコースを抉るようなレベル1.5のストレートを、それでも振り遅れずに引っ張られたのだ。
「!?」
 打球の上がり具合とその角度は、確実にスタンドインのものではある。亮は立ち上がって、その行方を追いかける。


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