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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-232

「ファール!」
 しかし、途中からそれはぐんぐんと切れていき、場外に消えるまえに審判の両手が大きくファールであることを示すサインを形作っていた。
「うむ。少し、タイミングがずれてしまったか」
 管弦楽がバットのヘッドを見やりながら、呟く。彼の中では、今の自分のスイングに不満がありそうである。
(甘いところだったら、やられていた)
 本当にベースをかするようにコントロールされたレベル1.5のストレート。普段と変わらないスイングに見えたが、わずかに管弦楽に窮屈さを感じさせたようだ。それ故に、ファウルで済んだのだが、切れ味の鋭い彼のスイングには、亮の背中も寒くなる。
(………)
 だが、負けるわけにはいかない。亮は、怯みかけた己に活を入れるように、ミットを二度、強く叩いた。
 追い込んでいるからといって、アソビの余裕などない。全ての球に力を注いで、相対しなければならない打者だ。
(勝負!)
 亮の構えたコースは、インコース。そして、球に威力がなければ長打を食らう、高めの場所だった。
 晶がわが意を得たりとばかりに顔を輝かせ、大きく振りかぶる。
 レベル2のストレートが、唸りを上げて管弦楽に襲い掛かった。
「!」
 管弦楽の鋭いスイングが、風を切る音を奏でる。
 キン! ――――力負けせずに晶の直球を捉えたすぐ後、
 バシ! ――――と、乾いた音がマウンドのところで響いた。
「あ、晶っ!」
 火の出るような打球がマウンドの晶を目掛けて放たれたのを、誰よりもはっきりと見続けていた亮。だからこそ、その打球と重なり合った瞬間に体勢を崩して倒れこんでしまった自軍のエースに背筋が一瞬にして凍りつく。
 打球というものは、ピッチャーが投じたストレートの威力をさらに上乗せした勢いで弾き飛ぶ。それがもしも、晶の体に直撃していたとしたら――――。
 最悪の事態を、想像した。しかし、
「アウト!」
 倒れていた晶の右手が軽く挙げられて、その中に白い軟球があることを審判に示した。どうやら、自らのグラブにダイレクトに飛び込んでいたらしい。
「あー、びっくりした!」
 目を丸くしながら、晶はそう言いながら半身を起こす。もう一度、自分でひっ捕まえた白いボールを確認すると、それを左手に持ち替えて、宙にふわりと放り投げてから再びグラブで捕まえた。
(ふ〜……)
 心底、安堵した。
「タイム」
 しかし、念のためマウンドのほうへ寄る。
「大丈夫か?」
「うん」
 晶は澄ました顔である。立ち上がると、背中や尻についてしまった土汚れを軽く払いのけていた。
「心配した?」
「あ、あたりまえだ」
「ふふ、ありがと。反射神経には、自信あるよ」
「ああ。……すごかったよ」
 それを少し手伝ってから、亮はライナーにひるまず、ものの見事に捕まえた晶の反射神経を褒めると、定位置に戻った。
(打球が、上がらなかったようだ)
 一方の管弦楽である。打席を5番の鈴木に譲り、今の対戦を反芻しながらベンチに戻る。
「惜しかったじゃない」
「うむ」
 出迎えてくれた京子。その言葉に、かすかに感じた悔しさは霞んで消える。
「正面だったからな」
 確実にミートし、充分な手応えも感じたが、投手の真正面に飛んでしまった。それを、機敏にも相手に捕らえられた。
 どんなに自分の満足する打球を放ったとはいえ、結果がアウトならば打ち取られたことにかわりない。
「次は、結果を出して見せる」
 しかし、相手の渾身のストレートを、完璧なタイミングで捉えることができたというのも、かわりがない。そもそも、管弦楽が晶に凡退を喫したのは、前期の試合での三振ひとつだけなのである。
(次……か)
 かたや亮は、次の対決のときには、新しいサインを出すことのためらいは必要がないだろうと考えていた。





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