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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-224

「あんたの言う通りだった」
「うん?」
「賭け野球なんかより、ビリビリくるよ。あたい、随分と勿体ないことしてたって、よくわかる」
「そうか。それは、なによりだ」
 京子の勝気な様子は変わらない。心配はしていなかったが、やはりそれでも管弦楽は“安心”した。
「次は、四番か……」
「気をつけろ。あいつは、近藤晶よりも凄い」
「へえ。あんたが、認めるぐらいの選手なのね」
「“勝負強さ”という意味では、僕に引けを取らない」
「ふふ」
 単純に数字だけをいえば、管弦楽は打率と打点において亮に及ばない。しかし、彼は自負を決して譲らない。そして、それを良く知っている京子は、昔は虚勢としか思わなかった彼の態度が、気持ちの通じ合っている今では頼もしく映る。
「あたい、負けないよ」
「うむ。京子なら、それができる」
 充分に気合が乗ったことを見届けてから、管弦楽は守備位置に戻った。
「プレイ!」
 それからしばらくして、亮が打席に入る。タイムを取った晶も既に塁上に戻っていた。
(どんなことを話し合ったか知らないけど……)
 京子はプレートに脚をかけると、一塁に走者がいるためセットポジションをとる。それから一度、目線で晶を牽制してから、今度は打者に集中し、津幡のサインを確認した後、一息ついてから投球に入った。
(この球を打ってみな!)
 鞭のようにしなる腕の先には、これまでと違う握りをされた軟球が収まっている。
 柔らかい一連の動きから、白球は糸を引くように、その発射台から放たれた。



(彼女、相当に重い球を投げるわ)
 京子がセットポジションに入ったとき、晶の言葉を亮は反芻していた。
 だから、“その球”が来た瞬間、彼は自分の思うスイングを放っていたのだ。
「!」
 いつものそれよりも、やや大きめにバックスイングを引き絞った。その反動を生かして、より強く鋭いスイングで球の重さに負けないように努めたのだ。そのぶん、バットコントロールは失われるが、かといって力負けしたのでは意味がない。
 晶の話には、続きがある。手元ではあまり伸びがない、ということだ。もちろん、それは晶の投げるストレートに比べれば、だが。
 だから亮は、少なくとも大振りになったとはいえ、バットには間違いなく当たると考えていた。
 だが、
「ストライク!!」
「!?」
 空振り。
 滅多にお目にかかれない、その事態に、城二大のベンチも、一塁上の晶も息を飲んだ。
「あっ」
 捕手の津幡が目ざとく、意識を他に移した晶に対して牽制球を投げる。晶はすぐに我に帰ると、慌てたように手から一塁へ戻った。
 管弦楽の見事なグラブ捌きは、最短距離で晶の腕を襲う。それでも触れる瞬間に、その勢いが軽くなった、ということは晶が投手ということを慮っているのだろう。
「セーフ!」
 余裕はあった。しかし、晶は心底肝を冷やした。
 人員の少ない城二大にはベースコーチャーがいない。その弊害が出た一瞬といえば、そうであろう。だが、その隙を逃さない櫻陽大の洗練された連携は、さすがである。
「………」
 普通のストレートだったならば、ひょっとしたら晶はアウトに取られた可能性もある。なぜなら、津幡の動作には、ひとつの“間”があったからだ。
(落ちた!?)
 空振りをした亮は、そのことがはっきりとわかっていた。
 なぜなら、ストレートのように見えたそのボールは、捕手のミットに収まる前に、ベースの手前でバウンドしたからだ。そのボールを簡単に捕球し、さらに一塁に牽制を放るというのだから、津幡の守備力と状況判断力がどれほどのものであるか、理解していただけるだろう。


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