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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-223

 管弦楽からボールを受け取った京子は、すぐにプレートを踏みしめる。晶はそれを確認すると、呼吸を合わせるようにバットを構えた。色々と落ち着いて考えたいこともあるが、それに気を取られて集中力を失えば、それこそ相手の思う壺である。
 三球目はアウトコースに際どいところを突いてきたので、カットを試みた。
 ギッ、と思いがけない衝撃が両手を襲う。自分の意志に反して、その打球はまたも小フライとなり、後方へふわりと上がった。
(っ!)
 しまったと思うよりも先に、捕手の津幡が追いかけている。しかし、フライというには滞空時間の短いそれに、彼のミットは追いつかず、再び審判のファールを告げる声がグラウンドに響いた。
 ほ、と胸をなでおろす晶。当てるだけの力のないスイングは、失敗だったと思う。
(重いんだ)
 そしてすぐに思い当たった。彼女……櫻陽大学の先発投手・醍醐京子のストレートは、その球質が重いということに。わずか二球の手応えで、その考えにいたるところは、晶の嗅覚がなせる業であろう。
 なるほど、長見と斉木が、ベストスイングをしていながら鋭い打球を飛ばせなかったのがよくわかった。
「晶、いいぞ! タイミングはあってる!」
「亮……」
 相手の強力な武器にどう対処するべきか……やや気圧された感のある晶は、しかし、ネクストバッターズサークルで激励してくれる想い人の姿に、すぐに冷静さを取り戻す。
(うだうだ考えてても、仕方ないもんね!)
 なにしろ初めての対戦となる第1打席だ。ここで凡退したからといって、試合の趨勢に影響があるわけでなく、むしろ、半端なことをして相手を勢いづかせることは避けるべきだ。
 ならばできることはひとつ。晶は、心を落ち着かせ、相手の投球を待つ。
(!)
 狙い球をしっかりと絞り、自分のスイングを思い切りこなすだけだ。読みどおりにきたインコースの直球に対し、鋭い腰の回転で勢いを与えたバットスイングで応じた。
 真っ白だった初球とは違い、既に相手の球質をある程度は把握しているスイングである。その“強さ”は、今までの比ではなかった。
 キン! とそれまでのものよりは、遥かに響きのよい音がバットから紡ぎだされた。そして、その音に相応する強い打球が、一・二塁間を転がってゆく。
「おのれ!」
 管弦楽が俊敏な動きで飛びつくが、わずかに及ばない。そして、しぶとく追いかけていた二塁手のグラブもそれに届くことはなく、打球はライト前に達した。
「よっしゃ!!」
 赤木がベンチの前に身を乗り出す。3番・晶の、絵に描いたようなライト前ヒットである。
「ふー」
 一塁ベース上で息をつく晶。相変わらず手のひらには今まで重りを持っていたかのような手応えが残っている。
「タイム、お願いします」
 たとえ強打者の亮とはいえ、それを知らないままでは苦戦を強いられるはずだ。晶はすかさず、塁審にタイムを宣告し、そのことを伝えるために塁を離れていった。



「さすが“荒”ね。打つほうも、隙がないわ」
 ライト前にヒットを打たれ、その打者の晶がタイムを告げたので、間ができたマウンドに、管弦楽が寄ってきた。彼から直接ボールを受け取りながら、京子は初めて対峙した伝説の選手に、手強いものを感じ、それが言葉になって出ていた。
「臆したのか?」
「まさか」
 ロージンバックを丹念に塗りこめて、京子は答える。クリーンヒットを放った晶に対して、臆するどころか、歯ごたえのある相手であることを改めて知り、気分が高揚しているところだ。


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