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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-222

 打席には、3番に入った晶がいる。
(晶には、負担をかける)
 このチームで初めてクリーンアップに座った晶は、それを告げた亮の言葉を反芻する。
(本当なら、投げることに専念して欲しいって言うのは変らない本音だけどな。もしも、負担になるようだったら、オーダーは考え直すよ)
 自分が3番に座るオーダーについては、既に前から聞かされていた。チームでも出塁率の高い直樹が不在となった状況にあり、それに次ぐ数字を晶が残していることがその理由だというのは、よくわかる。
 そして、亮から3番に入るよう言われたとき、晶は一も二もなく快諾していた。
(あたし、投げるのは好きだけど、打つのも大好き)
 晶は、決戦というべき試合で、しかも初めてクリーンアップの一角を担うことになっても、そのことが負担になるとは思っていない。むしろ、この“3番”という打順を嬉しく思っている。
 すぐ後ろには、亮が控えている。その一事は、何にも勝るものだ。
「………」
 左打席で構えを取る。ちら、とウェイティングサークルを見やると、ふたたび亮と視線が合った。
 その目はあまりに真摯であり、この試合に入り込んでいる。想い人としての甘さをふくんだものはいっさい存在していない。
 しかし、代りに、自分のことを見守ってくれる頼もしい強さが込められていた。同じ戦場に立つ、盟友に向けられているかのような。
 その精悍な彼の顔つきに、晶の胸は知らず躍った。
「プレイ!」
 しかしすぐに、現実に戻る。マウンドの上には、見知らぬ敵の存在がある。
(油断は禁物)
 晶は集中力を高めていった。切り替えの早さと、知らず身についたその方法も、勝負の世界に浸ってきた“賜物”であろうか。
 ざ、と京子の脚が高く上がる。まるで、自分の投球フォームを見ているような、柔らかい一連の動きから鋭く右腕がしなって、軟球がはじき出された。
「ストライク!」
 インコースいっぱいに、ストレートがきた。それはベースをかするぐらいの際どいところだったが、審判は何の迷いもなくストライクゾーンを通過したと判断している。
(コントロールは、すごくいいみたい)
 なるほど、その安定した投球フォームは、筋肉の運びに無駄がない。だからこそ、自分の思うとおりの球筋を生み出すことができるのであろう。
 二球目。もう一度、インコースへ。
「!」
 晶は、引き絞ったバネを弾くように、コンパクトなスイングで振りにかかった。
 ギンッ! と、長見や斉木が放ったものと同じ鈍い音が響く。同時に、晶は手のひらに、何か重りが圧し掛かったような力を感じた。
「ファール!」
 力ない打球は、一塁側のファウルゾーンへの小フライとなった。
 打球があがった瞬間、一塁手の管弦楽が捕球しようと、ダッシュをかけていたが、それは徒労に終わった。結局、彼はその軟球をグラブで拾い上げるだけに留まっていた。
 結果的には追い込まれた。だが初回ということもあり、打席内の晶にはまだ充分な気持ちの余裕がある。打席で体感した相手投手のボールを、じっくりと反芻してみた。
「………」
 晶の手には、まだ“重み”が残っていた。今まで対峙してきた各大学の投手とは、遥かに違うその手応え。


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