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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-186

「な、なにこれ……」
 たった1球の緩い球。しかし斉木は、その緩い球によって以後の打撃は凡退を繰り返した。
「アキラ、お願いしますです」
 本来ならば続く打者は3番に入っている直樹である。しかし彼は、卒業論文に関する講習会に出席せねばならず、それが終わってから練習に参加することになっている。そのため、4番を打つ捕手・亮も飛ばして、5番のエレナが打席に入ったのだ。
「………」
 バッテリーの間に緊張が走る。なぜなら、エレナこそ今日の打撃練習における最大のポイントと位置付けて二人はこのシート打撃に臨んでいたからだ。
「COME ON!」
 そんな二人の緊張にも気づかず、ヒップをふりふりとしながら構えるエレナ。
 晶が初球を投じた。レベル1のストレートを膝元へ。
「!」
 エレナの鋭いスイングが、手元の伸びに負けることなくその直球を軽々とグラウンドの遥か向こうへかっ飛ばす。
「相変わらず、すげえな……」
 自分の頭を高く越えて、転々としている軟式ボールを追いかけながら長見は思う。“隼リーグ”において、既に11本の本塁打を放っているそのパワフルな打撃は、城二大の攻撃力を半分以上担っているといっても過言ではない。
 エレナはその後も、右に左にパワー溢れる放物線を描き続けた。
(そろそろだな……)
 亮がサインを出す。拳を握り締めた状態のそれに、晶は大きく頷いた。
「………」
 なにか決意のようなものを込めた晶の瞳。そして、やはりセットポジションから投球を開始した。
「!?」
 振りにかかったエレナが、一瞬躊躇ったように動きを止める。投じられたボールは、例の“緩い球”だったからだ。先ほどまで快音を連発していたレベル1.5の速球にタイミングを合わせていたから、それが狂ってしまった。

 ぶんっ…

「な、なんだ!?」
 思わぬ強打者の空振りに、野手陣の狼狽は最高潮だ。なぜなら、晶のレベル2の速球が、本当に最高のコースに決まったときぐらいしかエレナは空振りをしない。それが、レベル1にも及ばない、下手をすると普通のストレートにさえ劣る緩いボールになす術もなく空振りをしてしまったのだから。
「OH! FANTASTIC!!」
 一方で、空振りに仕留められたエレナがその緩いボールを褒めていた。
「チェンジアップですね!」
「正解」
 そう。晶が投じた“緩い球”というのは、チェンジアップである。これは速球派の投手が多く用いるボールだが、カーブやフォークといった変化らしい変化はない。ストレートと全く同じ腕の振りをしながら、そこから緩い球を投じることで打者のタイミングを狂わせる、いわば打者を精神的に“幻惑”させる球だ。
「すごいですねー。ストレートのときと、全く同じでした」
 故に、緩い球であることを意識しすぎて腕の振りが鈍くなってはすぐにそれと気づかれてしまう。気づかれてしまえば、それは打ち頃なただの球に過ぎない。
 だが、直球の腕の振りと寸分違わぬ状態からチェンジアップを投じたとき、速球派の投手にとってそれは大きな武器となる。
「!」

 ぶんっ、ばし!

「え……?」
 エレナの空振りに、またしてもメンバーたちが首をかしげた。なぜなら、今晶が投じたストレートはレベル1だったからである。コースは外角の絶妙なところを貫いてはいたが…。それにしては、全くタイミングのあっていない空振りである。


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