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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-163

(そうまでして……)
 自分の力が欲しいのだろうか。不意に京子は、沸いて出たそんな考えに身を捉われた。
 管弦楽が所属している櫻陽大学の軟式野球部はなかなかの強豪だとは聞いている。なにしろ監督がアマチュア球界ではその名を轟かせた老将・日内十蔵だというのだから、頷ける話だ。
 その日内に見込まれたか、今年の入学にも関わらず管弦楽はそのチームで四番をはっているという。性格はともかく実力は、誰しもに認められているのだろう。
 そんな管弦楽が、ストーカー行為にも似たしつこさで自分を部に勧誘している。賭け野球の試合に、変態的に変装してむりやり参加してしまうほどに…。
(………)
 京子は胸に沸いた感傷を、かぶりをふって追い払った。
 自分は自分らしくある、そしてそれは、賭け野球の中でこそ感じられるもの。
(勝負だよ、管弦楽!)
 手加減は一切なし。真っ向勝負を京子は胸にひとり誓っていた。



 先攻のフラッペーズはあっさりと攻撃を終えた。とりあえずマウンドに上がった風祭の伸びもキレもないキャッチボールのようなストレートに、それでもタイミングがあわず凡退してしまったのだ。
 バネの利いていない、腕だけで振り回しているようなスイングを見ると、どうやらこのフラッペーズが相当に弱小であると京子はすぐに理解した。
(点は、やれないね)
 マウンドに向かいながら、自分の置かれている状況を考えてみる。打つ方がこの有様だから、きっと守備もまた目を当てられないことだろう。
 だが、松村の話では捕手に関しては問題ないということだった。チームでも4番を打つ彼だけが、フラッペーズにあっては唯一野球センスに溢れた選手だと言う。ただ、脚は恐ろしく遅く、ライトゴロはおろか、センターゴロも茶飯事だとも聞かされていたが。
「お京さん」
 いかにも鈍重そうな足音を響かせて、その捕手がマウンドに寄ってきた。
「なに?」
「サインがあるのなら、確認したいんですけど」
「そうね……」
 なかなか考えてはいるようだ。
「まあ、あたいは、あれとこれしか投げないから。あんたはとにかく球を後ろに反らさなけりゃそれでいいよ」
「は、はあ……」
「ほら、散った散った」
 うざったそうに、捕手を持ち場に着かせた。特定のチームに所属していない京子にとって、複雑なサインプレーは必要がない。
 相手チームの1番が打席に入った。松村のいう通り、覇気を感じない漫然とした雰囲気ではあるが、構えとしては悪くない。
(油断は、禁物ってね)
 京子はプレートを踏みしめて振りかぶった。華奢な体つきではあるが、そのモーションに無駄な動きはない。まるで自分の筋肉の繊維をひとつひとつ把握しているかのように、スムーズな回転運動がそのまま右腕へと伝わって、指先から白球を弾きだした。
「っ」

 スパン!

 と、小気味のいい音を響かせて、ボールはミットに収まる。
「ストライク!」
 ちなみにこの試合の審判は、務の職場の同僚が率いる、草野球チームの幹部たちが引き受けてくれた。そのリーダーは実直な男だから、公正な判定が期待できると考えてのことだ。
 捕手が球を返す。京子はそれを受け取ると、ほとんど間を置かずに二球目を放り投げた。



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